彼は藤娘

その教室はびっくりするぐらい賑わっていた。
入場制限もしてるらしく、廊下に行列までできている。

「装飾も乏しいし、宣伝もあのポスターのみ。なのにこの盛況。すごいね。」
会長の言う通り、外から見ても何が有るのかわからない。

「実は、本物の美術品を展示してる。」
本物?
「このクラスの保護者に、たまたま日本画家と洋画家がいてね。同じテーマの未発表作品の共演なんだそうだ。」
それは確かにずるいかも。

「盗難とかされへんの?警備が必要なんじゃない?」 
会長の質問に彼氏さんはうなずいた。

「我々もそう反対したけど、そしたらそれを展示テーマに変更してきた。美術品のセキュリティーと保険がメインテーマらしい。しかもいつの間にか教職員から御墨付ももらってきやがった。」
そうきたか!

「……頭がいいというか、ずる賢いというか、一筋縄でいかない人がいるのねえ。」
しみじみと議長がそう言うと、彼氏さんがポスターを指差した。
「それがこいつ。イケメンだろ。あ、本人来よった。あいつ。」

振り返ると、綺麗な女の子たちを引き連れた男子がこっちに向かってきた。
私は、ポスターと近づいてくる男子とを何度も見比べた。
似てる!てか、そっくり!ほんまにうまい!

でも、私の逢いたい長髪の彼ではなかった。
……よかった~、そんなずる賢い人じゃなくて。

「視察ですか~?実行委員長。」
女の子たちを行列におとなしく並ばせてから、その人は会長の彼氏さんにそう聞いた。

「いや、招待客のご案内中。竹原だけ?松と梅は?」
「……へえ。案内先に俺らも入ってるんや。」
竹原と呼ばれたイケメンくんは、不敵な笑いを浮かべた。
柔らかい口調の京言葉やのに静かな迫力を感じて、私は無意識に後退りした。

「あれ?君……。」
竹原くんが、動いた私を見て表情を変えた。
あ、こわくなくなった。

「アンケート取りに来たん?やっぱり俺にも書いてほしくなった?」
……へ?
私の頭の中に、はてなマークが飛び交う。
知らない。
誰かと間違ってはる?

即答できずにいたところ、横から議長が言ってくれた。
「なるほど。あなたが、アンケート用紙に記入も提出もしなかった!……竹原くん?」

あ!
あの時の!?
彼の隣にいたのが、このひと!?
……全然見えてなかったよ……ごめんなさい。
確かに、こうして見たらかっこいいのに。

つくづく、私はあの髪の長い彼しか見えてなかったな、と、もう一度ポスターを見た。

「そんなに気になる?こいつが。」
竹原くんは笑顔で、私が見ていたポスターの1人を指した。

私は何も返事ができず、ただうつむいた。
頬が熱い。
たぶん赤くなってしまっただろう。