彼は藤娘

「うわ~!ほんまにぃ!すごいね!え~、何年ぶりに会うの?2年!?」
「高2の夏から秋やったから、2年弱やね。……長かったわ。」

ため息をついた燈子ちゃんの横顔がアンニュイに見えた。
「……燈子ちゃん……綺麗……」

私が思わずそう言うと、燈子ちゃんは苦笑した。
「ふふ。なんか久しぶり。あきちゃんに褒めてもらうの。」

……そうかもしれない。
燈子ちゃんが踊れなくなって賞賛するタイミングがなくなったのと、それ以上に、彩乃くんの存在が大きいのかな。
「彩乃くんに完全に心を持っていかれてるんやろねえ。」
私の言葉に燈子ちゃんは微笑んで、それから心配そうに言ってくれた。

「よかったね。でも、あきちゃん、頑張りすぎて倒れんといてな。お家元での滅私奉公ぶり見てると心配になるよ。」
……じ~ん。

実際私は、自分でもよくがんばってると思う。
でもそんな風には誰にも言ってもらえないので……沁みるよ。

「ありがとう。でもお家元を見てると、私なんかまだまだ至らんとこばっかりやから……つい、自分のキャパ以上にがんばってしまうんやろね。」
「まあ、お家元とはキャリアが違うんやし。あきちゃんは、ほんま、よくやってるよ。あ、師匠!」
燈子ちゃんの言葉に振り返ると、彩乃くんがお店に入ってきたところだった。

「お帰り。早かったねえ。休講?」
「ああ。あ、今日、稲垣さんと会うたで。新しい彼氏と一緒にいた。」
あ~~~。
「また?……がんばってるねえ、なっちゅん。」
「次はうまくいくといいねえ。」
燈子ちゃんと2人で、台詞を棒読みするように言い合った。

……奈津菜は、男子の多い理系学部で華々しく大学デビューを決めたあと、当然のようにもてまくっているらしい。

奈津菜的には取っ替え引っ替えしてるつもりはないのだろうが、自分で一週間の見極め期間を設けて好きになれなさそうならチェンジしていく、そうだ。

まあ、佐野に心を残してる限り、奈津菜が誰かを好きになることはなさそうな気がするが。


「あ、夏休みは燈子ちゃん、お稽古お休みやって。」
彩乃くんの注文したニューヨークチーズケーキを一口もらいながらそう伝える。

「へえ。ほな綾之会の合宿も欠席やな。残念やな~。せっかく和倉温泉の『おもてなしナンバーワン』の旅館やのに。お友達価格で。」
燈子ちゃんは悲しい顔になったけれど、ぷるぷると首を振った。
「あ~、やば。一瞬、ニューヨークやめようかと思ったわ。」

「まあ、テオさんが凱旋来日しはったら連れてってもらえば?」
彩乃くんにからかわれて、燈子ちゃんはちょっと赤くなった。