彼は藤娘

かわいいっ!
思わず遙香の首に抱きついてしまう。

「遙香、乙女やねえ!うんうん。わかるよ~。」
「え~!あきちゃんは、彩乃くんだけやん!……そういや、最初痛がってたけど……今は?」
遙香にそう聞かれて、私は慌てて遙香から離れて両手で頬を押さえた。

「……それが……」
声を潜めて遙香の耳元で言った。
「正常位で長くされるとやっぱり腸が痛くなって吐き気がするねん……少しなら大丈夫やし、角度変わると気持ちいいねんけど……」

遙香も声のトーンを落とす。
「……彩乃くん、長い?太い?」

知らんがな!そんなん!
「比較したことないし、わからんわ!」
顔から火が出そう。

「うーん。子宮内膜症じゃなきゃいいけど……念のため、病院行ってみれば?」
遙香が普通の声に戻してそう言った。

え?

「……そんなたいそうな病気の可能性もあるの?単に昔、腸炎と腸捻転としたことあるから癒着してるしかと思ってた……」
不安いっぱいになる私に、遙香が首をかしげた。

「痛むのがほんまに腸やったら、そうやろね。でももし子宮とか、位置がずれてそうやったら早めに病院行きや。何の病気でも早ければ治るんやから。」
私は生唾を飲み込んで、コクコクッ!と何度もうなずいた。


……てか、こんな話を一般教養課程(ぱんきょー)の前に出来るのも女子大ならではかも。
改めて、私は遙香の存在を心強く思った。

講義が終わると、お家元に直行する。
お茶とお華のお稽古がある日以外は、そのまま夜までお家元のお手伝いをしながら彩乃くんを待った。

彩乃くんは、高校時代以上に忙しくなりそうだ。
1,2回生の間は、それでも夕方には終わるけれど……3,4回生は課題のために大学に泊まる人も多いらしい。

とりあえずしばらくの間は、彩乃くんが社中さんに教えるのは夜と土曜日。
空き時間と日曜日は彩乃くん自身のお稽古ということになりそうだ。

燈子ちゃんはお稽古日を増やして、木曜日の夜と土曜日にお稽古にやってくるようになった。
教職を取っている燈子ちゃんに必要な講義と、趣味丸出しで取っている私の講義はほとんどかぶらなかったため、キャンパスではなかなか逢えない。
だからお家元で逢えるのが、すごくうれしい。
毎回、お稽古の前に一緒にお茶やランチをしながらおしゃべりをしている。

「え?燈子ちゃん、遙香と一緒にバイトするの?また本山の墓所で?」
チョコチーズケーキをゆっくり味わいながら聞く。

「うん。夏休みにニューヨークに遊びに行ってこようかな、って。テオさんは経費出してくれるつもりらしいけど……滞在費は甘えても飛行機代ぐらいは自分で何とかしたいな、って思って。」

燈子ちゃんが、気恥ずかしそうに答えた。