彼は藤娘

遙香とは、第2外国語の中国語でたまたま同じクラスになった。

席が決まってないので一緒に座っているが、ふと気づけば、学科によって棲み分けができていた。
遙香の属する史学科の学生は意欲的らしく教室の前方を占め、私たち国文科は真ん中ぐらい、英文科の学生は後ろのほうに座りたがる傾向があるらしい。

「ブランド品保持率・化粧の派手さは英文がピカイチやけどね。史学科、だっさいだっさい!いつも同じカーディガンの子とか、常にジャージの寮生とかいるねんで。」
史学科ながらいつも綺麗にしてる遙香がそう嘆いた。

「国文もけっこうなもんやで。みずらの先輩もいるし、常に袴の能楽部の子もいるし。」
「みずら!?みずらって、あれやろ?日本武尊(やまとたけるのみこと)とか……」
「びっくりするやろ?鵜野讃良皇女(うののさららのひめみこ)バージョンの日もあるねんで。しかも、美人やねん!」

中学高校も充分自由な女子校だと思っていたけれど、女子大はさらに自由度に拍車がかかるらしい。
青いだんだらの新撰組の羽織を常に着てる学生もいる。
罰ゲームか何かで忍者コスプレで走ってる学生を見たこともある。
自作コスプレでキャンパスを闊歩するとか、もう日常茶飯事過ぎて普通の風景に思えてくる。

「たぶん、既にこの学園の『普通』と、世間の『普通』には乖離(かいり)があるんやろうね。」
私がそう言うと、遙香が笑った。

「今頃、気づいたん?私が高校からこの学園に来て、どれだけ異様に感じたか……まあ、もうすっかり馴染んでしもたけどね、私も。」

遙香はそう言いながら、震えたスマホを取り出して見て、にへら~っとにやけた。
「上垣さん?」
「うん!休憩時間みたい。」

……結局、遙香はめでたく上垣さんと付き合い始めた。
すぐに東京に行ってしまわはったけれど、前の失恋の轍を踏まじ、と、上垣さんはがんばって連絡をくれるらしい。
本山のある京都にも意欲的に研修や出張を引き受けてるらしく、覚悟してたよりは逢えているようだ。

「……ほら、卒業式の日に彩乃くんがまほさんを挑発したやん?あれで危機感抱いたみたいで……」

遙香は上垣さんとつきあいだしてから、真秀(まさひで)さんを「まほさん」と呼びだした。
お坊さんとしては真秀(しんしゅう)さんと読むのだが……遙香だけが呼ぶ愛称が欲しかったらしい。
日本書紀や古事記、風土記ではおなじみの「大和(やまと)は国の真秀(まほ)ろば」からのようだ。

「まほさんがね、私に執着してくれればくれるほど……まほさんと出逢う前にメチャクチャしてた自分に腹が立って、まほさんに申し訳なくなるねん。」

本当に別人のように一途な遙香が、淋しそうにそう言った。