彼は藤娘

「私は上垣さんの元カノとは違う!やってやろうやん!遠距離上等!まだ一ヶ月ある!上垣さん、マジで落としてくるっ!」

走りだそうとした遙香の手を慌ててつかんで止めた。
「待って!今じゃないほうがいいって!」

私がそう言うと、彩乃くんもうなずいて同意した。
「あの様子やったら、頭に血ぃ上ってるんちゃうか?今日はこのまま帰って……旅行から帰ってきてからお土産持って突撃したら?5日間、ずっと川村さんのこと考えて悶々としてはるやろし、効果的なんちゃうか。」

遙香はしばらく考えてから、うなずいた。

……もともと恋愛の手練手管は、私たちよりも遙香のほうがずっとスキルが高いはず。
感情的に玉砕するより、じっくり攻めたほうがいいに決まってる。

「わかった。そうする。ありがとう。」
それから遙香は、彩乃くんの肩をぽんぽん叩いてにんまり笑った。

「彩乃くんもあきちゃんのことを想って5日間、悶々とするんやね?」
彩乃くんは少したじろいだけど、開き直ったらしく、むしろ胸を張った。

「い~や。1年間、俺は週1で耐えた実績があるからな。5日ぐらい!」
……彩乃くんの学校も2月から卒業式までほぼずっとお休みなので……実は、彩乃くんの受験が終わってから、とりあえず今のところ毎日抱かれちゃってるんですけどね。

たぶん今日もなかなか放してもらえないんだろうな……と、私はこっそりため息をついた。




卒業旅行から帰りついた夜、遙香は毛蟹を入れた発泡スチロールの箱を携えて上垣さんのマンションを訪ねた。

遙香からの報告がラインに上がったのは、翌日の朝。
蟹を食べながら口説いたけど落ちてくれず、帰れと言われても居座り、夜もかなりしつこく迫ったらしいけど、結局、手は出してもらえなかったらしい。

ただ、朝になってやっとちょっと態度が軟化したらしい。
とりあえず帰宅するよう諭されたけど、また今夜会ってもらえるらしい。

上垣さんが落ちるのは、時間の問題だろう。



3月9日。
彩乃くんと奈津菜の合格発表が、ホームページのみでの発表という今時なシステムで行われた。

……前日はセルジュの大学で合格発表があったので、義人くんと彩乃くんは一緒に見に行ってセルジュの家で祝杯をあげてそのまま泊まったらしい。
というわけで、彩乃くんの合格発表は、彩乃くんはセルジュの家のパソコンで、私はお家元のパソコンで確認した。

結果は、見事に合格。
お家元と手を取り合って喜び、ちょうどいらしていた社中さんたちにも伝えた。

奈津菜も無事に合格したらしく、佐野先生に報告に行くらしい……が、がんばれ!