彼は藤娘

墓所へ向かう橋を渡り、山門を目指して階段を登っていると、遙香がこっちにやってきた。
「お!タイミングばっちり!遙香~。これ、彩乃くんが……」
途中で叫ぶのをやめてしまったぐらい、遠目にも遙香の様子はおかしかった。

「遙香~~~!?」
遙香はやっと私に気づいたらしく、こっちを見下ろした。

「あきちゃ……あ!」
つまづいたらしく、遙香がその場に転んでしまった。

「遙香!?」
慌てて階段を駆け上がる。

「大丈夫!?怪我した!?」
オロオロして遙香の膝や手を見る……特に傷はできてないようだが……遙香は顔を真っ赤にして泣きじゃくった。
「上垣さんが……」

え!?何?
「上垣さん、結婚でもしはったんっ!?」

思わずそう聞くと、遙香は私をマジマジと見た。
「……あきちゃん……短絡的。」

悪かったわね。
彩乃くんが近づいてきて、遙香の手を取って立たせてあげてくれた。

「こんな時になんやけど、はい、卒業おめでとう。」
そう言って彩乃くんが遙香にミックスカラーの薔薇の花束を渡した。

「ありがとう……」
遙香は薔薇の中に顔を埋めるようにして、肩を震わせた。

「そのまま聞いて。小さい声で返事してな。上垣さんって、シュッとしてはる、髪がある坊さん?」
「うん?……うん。」

遙香の返事を聞いてから、彩乃くんは遙香の肩に手を置いて少し角度を変えて引き寄せた。
遠目で見れば抱き寄せたように見えるだろう。
私も一瞬驚いたけど、彩乃くんがちゃんと距離を取っていたことがわかったので黙って見ていた。

しばらくして、彩乃くんがため息をついて遙香から離れる。
「何があったか知らんけど、たぶんその上垣さんが、川村さんを追いかけてきて、話しかけるのを躊躇してウロウロしてた。俺が近づいて薔薇を渡したらめっちゃ動揺してた。川村さんに触れたら、すごい目で睨んで去ってった。あれ、川村さんに気ぃあるで?」

え!?

遙香は、またぶわっと涙をあふれさせた。
「でも……上垣さん、4月から東京に転勤が決まったって。」

東京!?

「何で!?」
「元カノが東京にいたから2年前に転勤願を出したのが、今頃通ったって。」

……何や、それ。
2年もたてば事情変わるやん。

「まあ遠距離恋愛になるけど、好きやったら諦めんでええんちゃう?」
彩乃くんがしれっと言った。

「東京なんか新幹線で2時間ちょっとやで。藤木さんに言うたら怒られるで。」
……そりゃニューヨークとじゃ比較にもならないけど。

「でも男は腰引けるやろな。……成るか成らんかは、川村さん次第やろ。」

彩乃くんがそう言うと、遙香はシャキーン!と背筋を伸ばして顔を上げた。