彼は藤娘

奈津菜自身は佐野から離れて華麗に大学デビューして素敵な彼氏を作る予定らしいが、今なお奈津菜に執着している佐野にさらにいつまでも自分に想いを残させたいらしい。

奈津菜は復讐だと言ってるけど、私にはそうは見えない。
佐野のことが好きで好きでしょうがないんだと思う……未だに関係は切れてないようだし。

「セーター編んだら?」
寒いニューヨークのテオさんにおねだりされて、秋からずっとセーターを編んでいる燈子ちゃんが手を休めずにそう言った。

「……いや、それは……受験生やし……一緒にケーキ焼く?」
遙香は、上垣さんというよりバイト先にケーキを焼いてアピールするのだそうだ。
大学生になったら本格的にせまるらしく、今は点数稼ぎに励んでいるそうだ。

「あきちゃんは今年も?」
「……うん。」
私は苦笑いした。

彩乃くんは、「愛情のこもった味のイマイチな手作りより美味しいプロの味」を望んだ。
特に甘い物にこだわりがあるので、とにかくうるさい。
クリスマスのケーキも普通にデパートや繁盛してる有名店だと冷凍のスポンジを使うので嫌らしい。

ということで、予約数を絞った上に、食べる時間まで指定してくるこだわりのパティシエに作ってもらうことにしている。

私の役目は、パティシエ指定の時間にお店まで取りに行き、紅茶かコーヒーを入れて、予定時間ぴったりに食べるようセッティングすること、だ。

「実際美味しいしいいねんけど……何か、バレンタインが単に2人で美味しいケーキを食べる日になってる気がする。」
私がそうぼやくと、奈津菜が言った。

「ほな、あきちゃんが実践したいアイデアを教えて!私がかわりにやったげるから。」
……アイデアねえ……。

「普通に手編みのセーター編んで~、普通にチョコレートケーキ焼いて~、普通におデートして渡したい……」
そう言うと、奈津菜はがっくりと肩を落としてため息をついた。
「あきちゃんって、ほんっまに『普通』に拘(こだわ)るよね。」

また指摘されてしまった。
「それ、彩乃くんにもよく言われる。『高校生らしい』とか『普通に』とか言い過ぎみたい。彩乃くんや義人くんみたいなハイソな環境で育った人たちと交わることで自分を見失いたくないのかもしれへんねえ。」

私がそう言うと、編む手を止めて燈子ちゃんが私を見た。
遙香も変な顔をしている。
首をかしげて奈津菜が言った。

「……あきちゃん、自分を『普通』って思ってるよね……それ、勘違い。」