彼は藤娘

名門校は、見通しのよい広い敷地を有していた。
「……ちょっと前まではフェンスもなくて、もっと開放的やってんけどね。」
ランチに連れてくれた会長の彼氏が、そんな風に言った。

「それはすごいですね。サボり放題やったんや!」
副会長が目を丸くしてそう言うと、彼氏さんは笑った。
「いや、それは今でも。現に俺も文化祭抜け出してこうして君らといてるし。」
「そういえば、役員してらっしゃるんですよね?大丈夫なんですか?」
議長が気を遣ってそう聞いたけど、彼氏さんはいたって暢気だ。
「外交も大事なお役目だから。」
鷹揚な人らしい。

「じゃ、行こうか。君ら、制服やし目立つと思うけど、覚悟してね。」
なるほど、確かに私服の学校で私たちは異質だった。

彼氏さんは、事前にめぼしい発表や模擬店を選んで下さっていたので、私たちは効率よく校内を回れた。
「やっぱり共学は活気があるねえ。」
確かに感心すべき点が多い。
が、いかつい男子の迫力ある呼び込みに、ついつい怯えてしまうのも事実だった。
会長の彼氏さんが一緒にいてくれはってよかった!

そんな中、選挙のようにポスターが並んで掲示されている一角に案内された。
各クラスやクラブが工夫を凝らしたポスターはやはり勢いを感じておもしろかったので、私は持参したカメラで数枚ずつ撮影した。

ふと、一枚の手描きポスターに気づいて私は固まった。

彼、のような気がする。

白い紙に鉛筆デッサンで3人を胸像風に描いてあるのだが、その中の1人に私の目が釘付けになった。

長い髪と鼻筋の通った上品なお顔立ち。

……って、ほんっとうに、女性じゃないよね?

「これ、見たいです。」
演劇のポスターかと思ったら、1年A組の芸術系の展示らしい。

「あ~~~~~。」
彼氏さんが、納得したようにそう反応した。
「これね、反則。」
苦々しく笑って彼氏さんはそう切り捨てた。

「反則?あ、かっこいい。……美化し過ぎ?」
会長がそう聞くと、彼氏さんは首を振った。
「いや、よく描けてる。むしろそっくり。有名な画家さんの娘さんが描いたらしいんだけどね、ほんと上手いよ。」

そっくり!じゃ、やっぱり!?

「なんで反則?」
副会長の疑問に、彼氏さんは頭をかいた。
「んー。反則というか、ずるい!かな。不文律を無視してるというか、やり過ぎというか。ここだけの話、賞典除外の予定。」

私たちは、思わず顔を見合わせた。
賞典除外とは、穏やかじゃない。

「ま、行ってみようか。百聞は一見に如かず、だ。」