彼は藤娘

「明子ちゃん、無理しなくていいのよ。今は私と2人きりなんだから。……彩乃さんのワガママは筋金入りですもの。大変でしょ。」
お家元がお茶を入れてくださる。

「……まあ、基本的にはワガママでお行儀も悪いですよね。でも、ちっちゃい頃からお家元だけは、厳しく注意してはりましたでしょ?あれでやっと、外面(そとづら)だけは取り繕えはるようになったんちゃいますか?」

最近つくづくそう思う。
彩乃くんは、お家元に厳しく当たられたと恨んでたらしいけど、それ、マジで違うでしょ。
祖母として、孫が人並みにお行儀よくできるように敢えて心を鬼にして注意してくれてらしたんだと思う。
だって、彩乃くんがちゃんと礼儀正しい時は、お家元、ほんっとにお優しいもん。

「私も、お家元みたいに彩乃くんに対して毅然と注意できたらいいんですけど……惚れた弱みですかねぇ。」
お家元はキョトンとされたあと、お腹の底から小さくこみ上げてきたらしい笑いを少しだけ吐き出された。
「ほほほ。おかしいこと。明子ちゃん、無自覚なのね。充分、彩乃さんを矯正してくれてるわよ。」

そ、そうですか!?

「あの子が、私と、明子ちゃんと、この屋敷で同居したいと言ってきました。そんなこと、絶対に有り得なかったわ。私、願ってすらなかったもの。まだ夢みたいよ。」

彩乃くん、もうお家元に言うたんや!
早っ!

お家元はお茶を置いて、私の右手をご自分の両手で包み込んだ。
「ありがとう。」
お家元の目が、赤く潤んだ。

私は、もらい泣きしそうになったけど、ぶるぶる首を振った。
「違うんです!それ、私が言う前に、彩乃くんのほうから言ってくれたんです!だから私もうれしくて……」

お家元は何度もうなずいた。
「ええ、ええ。でも、彩乃さんをそう変えてくれたのは、やっぱり明子ちゃんだわ。ありがとう。」
「おばあさま……」

結局、泣いてしまった。

私、本当にこのかたが好きだ。

家元とか、彩乃くんのおばあさまとか、全部取っ払って、大好きだ。



夕方、ほんとに彩乃くんはやってきた……私を抱きに。

お家元は、彩乃くんの試験1日めをねぎらうと、早々に帰って行かれた。
「明子ちゃん、明日は早いからココに泊まるといいわ。彩乃さんは、明日もがんばってらっしゃいね。」

つまり2人でしっぽりしたら明日の試験のためにさっさと寝ろ、と?

……ほんま、よぉできたかたやわ。