彼は藤娘

北野天満宮の北側から出ると、芳澤流のお家元まで1㎞離れていない。
ゆっくり歩いて、途中の洋食店でランチをとり、お家元へ。

「今年は、新年会も彩乃くん、欠席なんやねえ……」
「……ちょうどセンター試験やし、しゃあないな。」
「ふふ。4月からずっと欠かさず続けてきた土曜日の逢瀬もセンター当日はなしやね。日曜も試験やもんね。」
そう言いながら、彩乃くんが開けた門や戸を私が閉めて進む。

「何で?試験は夕方終わるで。翌日の試験のために、リフレッシュさせて。」
彩乃くんは、私を背後から抱きしめると、身八つ口から手を入れてきた。

「ちょ!せめてお部屋に行ってから!や~!」
……体中の力が抜ける。
立ってられなくなる。

「体は、嫌がってない。」
彩乃くんが上機嫌で私の裾を割った。

「だって、彩乃くんが……」
毎週毎週求められて、私の身体はすっかり彩乃くん仕様だよ、もう。
自分の意志なんか関係なく、彩乃くんの意のままに操られてしまう。
ああ……。
抵抗するのを諦める。

「振袖……汚れたら、彩乃くんのポケットマネーで洗いに出してね……」
それだけ伝えると、私は彩乃くんに身を委ねた。



彩乃くんたちや奈津菜のセンター試験の日は、さすがに落ち着かなかった。
歯がゆいというか、自分ではどうしようもないのに、心がざわついてざわついて。

私は朝からお家元で明日の新年会の準備をしていたが、気づけば手を止めてため息をついていた。
「明子ちゃん、お昼にしましょうか。」
お家元にそう言われて、既に正午を回ってることに気づいた。

「封筒詰め、あとどれぐらいあるの?」
お家元のお気に入りのおうどん屋さんのきつねうどんをいただきながら、返事する。
「終わりました。今は受け取った年賀状で住所変更がないかのチェックをしてます。」

おあげさんがふくふくで美味しい。

「……何でも手早いわねえ、ほんと。言われてないことまでやってくれるし。彩乃さんは果報者ね
え。」

京都らしい香り高いおだしも、最高。

「私もそう思ってました。お家でもこちらでも、お友達にも、彩乃くんはぬくぬく甘やかされて幸せな人やなあ、って。」

子供の頃は大阪の甘いおあげさんと甘めのおだしが好きやったけど、今は京都のきざみあげに滋味を感じる。

「でも、彩乃くんは恵まれた人ってだけじゃなくて、人の何倍も努力して……なかなかあそこまで頑張れる人、いないですよね。今は、心から尊敬してます。」

それにやっぱりおねぎは、九条ねぎ。
柔らかくて甘くてバッチリ合うてる。

私は、絶妙のハーモニーにニコニコが止まらない。

美味しいわぁ。