彼は藤娘

「わ!すごい!……ほなまた今度連れてってね。受験終わってからのほうがよければ待つよ。」
にっこり笑ってそう言うと、彩乃くんは口をへの字に結んだ。

「嫌や。俺、一週間めっちゃ我慢してんで。受験終わるまで、とか、絶対無理やし。」
そう言って彩乃くんは私を抱く手に力を込めた。

「じゃ、せめて発表会終わってからにしたら?お稽古優先したいでしょ?」
彩乃くんはますます口を急角度に結んだ。

「あき、いけず。」
「違うよ~。彩乃くんのことを慮(おもんぱか)って、」
言葉の途中で、唇をふさがれた。

いつもの、唇が触れ合うだけのキスだと思ってたら、舌が侵入してきた!
わ~~~~~っ!!!
心の中でジタバタと悶える。

しばらく口中を蹂躙されて、やっと解放された。
全身に力が入らない。
くたっと彩乃くんの胸に体を預けて、息をついた。

「もっと。」
甘ったるく鼻にかかった声で彩乃くんが訴える。

私はまともに返事できなかったけれど、かすかにうなずいた。
頬に手をあてがわれ、顔を彩乃くんのほうに向けさせられると、深~いキス。
脳天が甘く痺れる。
背骨を伝って全身に震えが走る。
身体の奥が……疼く。

彩乃くんも同じように感じたのだろうか。
そっと唇を放すと、かすれた声で、ためらいがちに言った。

「……て、いい?」

何て聞かれたのか、正直、聞き取れなかった。
けど、何を求められても、私が彩乃くんを拒否するわけがない。

私は、快楽物質出まくりでとろーんとしたまま、なんとか口元を笑顔の形になるように作ってから
「うん。」
と、言った。

それがゴーサインになったらしく、あれよあれよと言う間に羽根布団を剥ぎ取られる。
仰向けに寝てる私に、彩乃くんが覆い被さってくる。
彩乃くんの髪から、浴衣から、いつものかぐわしい薫香を感じる。

……ああ。
大好き。
愛してる。

触れられるところ全てが、熱を帯びる。
血が巡るのを感じて、さっきは本当に貧血で倒れたんだなと理解した。

くすぐったさと、恥ずかしさと、痛みと共に、私は彩乃くんのモノになった。



これで彩乃くんの所有欲と独占欲も落ち着くかと思いきや……ますますひどくなってしまった。
ははは……はは。

けだるい体を起こして私がお手洗いに立ったのは、夜中の何時頃だったろうか。
ぼんやりと春らしい朧月と、部屋から漏れる灯りに、小振りな紅しだれが控えめに立っているのを好ましく眺めた。

綺麗だなあ。
しばらく夜風に当たって桜を眺めてると、彩乃くんがちょっと慌ててやってきた。
何故か、さっき私が巻かれていた薄い羽根布団を握りしめて。

天女の羽衣じゃないんやから、と、私はこっそりほくそ笑んだ。