「明子ちゃん。早かったわね。お昼、食べんと来たん?」
お家元がお稽古場から奥の私室へと続く渡り廊下で私に声をかけた。
「こんにちは。ちょっと食欲なくって。」
……今夜そういうことになるのなら、少しでもお腹をへこませたい乙女心。
「あら、大変。学校忙しいの?季節の変わり目で風邪でも引いてないといいけど。あらあらあら、顔色悪いんじゃない?青白いわよ?」
本気で心配してくださってるのが伝わってくる。
「大丈夫です。ありがとうございます。どこかお出かけですか?」
「ええ、大阪の社中さんにお呼ばれ。せやし今日明日はもう誰も来ないから、お花、月曜でもいいのよ?体調優先で。がんばりすぎないでね。」
「はぁい。ありがとうございます。……あの、彩乃くんは?」
お家元は苦笑した。
「まだ納得できひんみたい。舞いには厳しい子やからねえ。受験勉強するなら、もっと簡単な演目に変更すればいいのに。頑固というか。」
「……そうですか。」
彩乃くんは、次は「船弁慶」を舞う。
静御前と平知盛の二役だ。
とてもお稽古時間が足りないだろうなあ、とは思ってたけど、やっぱりなあ。
お家元をお見送りしたあと、とりあえず門を閉めた。
彩乃くんがお稽古に集中している間は、防犯上は私一人きりと大差ない。
あちこちの戸締まりをしてから、お花を活けて回った。
最後にお稽古場に入ると、彩乃くんは確かにお稽古に没頭していた。
この集中力って、ほんとにすごいと思う。
……彩乃くんが頭がいい?成績がいい?……どっちか知らんけど、それもあながち嘘ではないと思う。
この集中力をもってすれば、大抵のことは頭に入りそうだから。
それにしても……飽きないというか……すごいな。
私も彩乃くんのお稽古大好きだし、いつまでも見てられる自信はあると思ってたんだけど……昼食をとらなかったせいか……だんだん……意識が遠くなっていく。
……後から思えば、貧血もあったと思う。
座ってたはずが、ずるずると頭がずり落ちてきて、最終的にはほとんど横になってしまっていた。
別に倒れたわけじゃないんだけど、結局、そのまま寝てしまったらしい。
「あき?大丈夫か?寝てる?」
彩乃くんに揺り起こされて、目が覚めた。
「ん……」
心配そうな彩乃くんの綺麗なお顔。
髪が汗でぺったりと額に張り付いてる。
だいぶ頑張ってはったのかな。
「今、何時?」
外はなんだかもう暗そうだ。
「えーと、21時。……ごめん、こんな遅くまでお稽古するつもりなかったのに。」
おー、15時過ぎまでは起きててんけどな。
6時間も寝てたのか。
起き上がろうとしたところ、くら~っと、目の前が回った。
「あ……」
蚊の鳴くような声をあげて、再び私は畳に崩れ落ちた。
……貧血?立ちくらみ?
「あき!?」
「大丈夫……起こして……」
彩乃くんの手にしがみつくけど、目の前に上からじわじわと緑色のモザイクがかかり、暗転した。
お家元がお稽古場から奥の私室へと続く渡り廊下で私に声をかけた。
「こんにちは。ちょっと食欲なくって。」
……今夜そういうことになるのなら、少しでもお腹をへこませたい乙女心。
「あら、大変。学校忙しいの?季節の変わり目で風邪でも引いてないといいけど。あらあらあら、顔色悪いんじゃない?青白いわよ?」
本気で心配してくださってるのが伝わってくる。
「大丈夫です。ありがとうございます。どこかお出かけですか?」
「ええ、大阪の社中さんにお呼ばれ。せやし今日明日はもう誰も来ないから、お花、月曜でもいいのよ?体調優先で。がんばりすぎないでね。」
「はぁい。ありがとうございます。……あの、彩乃くんは?」
お家元は苦笑した。
「まだ納得できひんみたい。舞いには厳しい子やからねえ。受験勉強するなら、もっと簡単な演目に変更すればいいのに。頑固というか。」
「……そうですか。」
彩乃くんは、次は「船弁慶」を舞う。
静御前と平知盛の二役だ。
とてもお稽古時間が足りないだろうなあ、とは思ってたけど、やっぱりなあ。
お家元をお見送りしたあと、とりあえず門を閉めた。
彩乃くんがお稽古に集中している間は、防犯上は私一人きりと大差ない。
あちこちの戸締まりをしてから、お花を活けて回った。
最後にお稽古場に入ると、彩乃くんは確かにお稽古に没頭していた。
この集中力って、ほんとにすごいと思う。
……彩乃くんが頭がいい?成績がいい?……どっちか知らんけど、それもあながち嘘ではないと思う。
この集中力をもってすれば、大抵のことは頭に入りそうだから。
それにしても……飽きないというか……すごいな。
私も彩乃くんのお稽古大好きだし、いつまでも見てられる自信はあると思ってたんだけど……昼食をとらなかったせいか……だんだん……意識が遠くなっていく。
……後から思えば、貧血もあったと思う。
座ってたはずが、ずるずると頭がずり落ちてきて、最終的にはほとんど横になってしまっていた。
別に倒れたわけじゃないんだけど、結局、そのまま寝てしまったらしい。
「あき?大丈夫か?寝てる?」
彩乃くんに揺り起こされて、目が覚めた。
「ん……」
心配そうな彩乃くんの綺麗なお顔。
髪が汗でぺったりと額に張り付いてる。
だいぶ頑張ってはったのかな。
「今、何時?」
外はなんだかもう暗そうだ。
「えーと、21時。……ごめん、こんな遅くまでお稽古するつもりなかったのに。」
おー、15時過ぎまでは起きててんけどな。
6時間も寝てたのか。
起き上がろうとしたところ、くら~っと、目の前が回った。
「あ……」
蚊の鳴くような声をあげて、再び私は畳に崩れ落ちた。
……貧血?立ちくらみ?
「あき!?」
「大丈夫……起こして……」
彩乃くんの手にしがみつくけど、目の前に上からじわじわと緑色のモザイクがかかり、暗転した。



