彼は藤娘

「義人くんて、いっぱいお付き合いしてる人いるみたいやけど、ほんまに好きな人っていいひんの?」
終宴後、泊まらせてもらうお部屋に移動しながらセルジュに聞いてみた。

……眠くなった者から退出したら、結局、一番お酒に強いセルジュと、飲まないようにしていた私が残るらしい。
「そうだね。いると言えばいるけど、対象外?……妹と彩乃。」
セルジュは苦笑しながらそう言った。

「……。」
……由未ちゃんはさておき、彩乃くんは女舞の姿限定だよね。

「恵まれてるようで不憫だよね。僕は一時の夢幻(ゆめまぼろし)と思ってるけど、義人は思い切れてないよね。」
私は複雑な気持ちになった。

セルジュがやわらかく微笑みかける。
「あきらけいこは気にしなくていいから。彩乃と仲良くしてくれてる限り、義人も僕も君の味方だよ。」

私の心がざわざわと波立つ。
……はっきり言うてくれるわ……。
わかってるけどさ、彩乃くんありきの友人関係だって。

「ほんまにイケズやわ、セルジュ。」
くやしい気持ちを隠しきれずにそう言うと、セルジュは眉をひそめた。
「そう?酔ってるのかな。言葉が過ぎたようだね。ごめんね。でも、これぐらいで傷ついてるようでは、芳澤流でやっていけないよ。」
……。
ぐうの音も出ない。

「おやすみ、あきらけいこ。いい夢を。」
「おやすみ。」

セルジュと別れて、準備していただいたお部屋に入ると、ため息が出た。
彩乃くんは、もう高いびきかな。
……芳澤流だけじゃない、彩乃くんのお友達にも、ご家族にも、親類にも、みんなに認められていたい。
がんばるよ、私は!
自分に気合を入れて、ベッドに入った。


翌日。
セルジュは帰宅、彩乃くんはお家元へ、そして義人くんと私たちはコーラスの合同練習へ。
秋の発表会に向けてのはじめての顔合わせ……いや、音合わせ?
……とにかく……圧倒された。

こんなとこにわざわざ出てくる人って、やっぱり、コーラス部とか声楽やってるとかそういう人が多いらしい。
私たちのようなド素人の出る幕じゃない。
レベルの差を感じ愕然とした。

でも、周囲からの綺麗な高い声に釣られて、自分の声もより高く出ているような……錯覚に陥った。
次の練習は、夏休みの最終週の土曜日。
それまでに自己練習……できるか?

練習のあと、燈子ちゃんとお家元へ。
少し遅くなったけれど、燈子ちゃんはお稽古、私はお花を活けて回った。
……彩乃くんが指導している姿を垣間見る。

せっかくの夏休みなのに、今のところ、旅行とかお泊まりとか……2人が進展しそうな予定がたってない。
彩乃くんは、ほぼ毎日ココに来る。
私は、生徒会の仕事で週2ぐらいで学校。
まあ、習い事もあるけど、それでも普段よりは確実に時間があるだけに……海とか行きたいのよぉ。