彼は藤娘

たっぷり2時間以上かけて食事をいただいたので、食前酒のアルコールは既に分解された……かな?
それにしても美味しいお酒だったな~。
青竹に入った冷酒。

お店を出てから、彩乃くんが私の肩をぐいーっと抱き寄せた。
ご機嫌さん?

「あき~。あの大将、俺の父親の友達。」
え!そうなん!?
「先、言うて……」
「だって言うたら、あき、緊張するやろ?」

……いや、お家元の行きつけってだけで充分緊張してたし、入ったら入ったで値踏みされまくって緊張しましたけど。

「女将も大将も褒めてたで、あきのこと。」
にこにこにこにこ……頭にお花が咲いてるよ、彩乃くん。

私は、GWに師の師に感じた不信感を思い出しながら、苦笑した。
とりあえずは私が彩乃くんの品位を損なわないことのみの評価だろうな、と推察する。
「ほな、ガッカリさせへんようにせんとね。仲良ぉしてね。」

彩乃くんに私の言葉の意図がどの程度伝わったのか、わからない。
わからないけど、彩乃くんは満面の笑みで私のこめかみに口づけた。

再び鉾町に戻り、そぞろ歩く。
「あきはどの鉾が好きなん?やっぱり、菊水鉾?」

彩乃くんにそう聞かれて、うーんと考える。
「あの『したたり』が好きやから、必ず菊水鉾には行くけど……好きかと聞かれると……蟷螂山?」

彩乃くんが、クッと笑う。
「小学生男子みたいやな。変なやつ。」
……彩乃くんかて、充分変ですよ~だ。

「あ、あれも好き。宵山の午後に聖護院から役(えん)の行者が来て、ホラ貝吹いて法要しはるの。壮観。」
私がそう言うと、彩乃くんも知ってたらしい。
「ああ、役行者山?行者餅はよく食ったな。」

「いいな~!なかなか手に入らへんのに!」
「そうなん?たぶん明日誰かが買うて持ってきてくれるんちゃうか?」
そんなたわいもない話をしながら、私たちは夜の鉾町を歩き回った。


翌16日は、お昼前から「綾之会」の初顔合わせがあった。
一応、初年度の申し込み者は300人ほどだったが、今日来られたのは100人ほど。
意外と若い人が多くて驚いた。

親睦会を兼ねた会食の後、役員の選出と、今後の活動についての話をした。
……いずれ……たぶん彩乃くんが大学を出てからの話なんだろうけど、出稽古を兼ねた親睦旅行の希望がけっこうあって……えらいみなさん盛り上がってらしたなあ。

事務局の負担は大きそうだ……(ため息)。

夕方、一旦、会はお開きになったが、希望者が集まって鉾町散策をした。
彩乃くんが会員さんたちの真ん中で堂々と振る舞っているのを、私は一行の最後列を燈子ちゃんと歩きながら眺めていた。

昨夕おデートできたからか、穏やかな気持ちで女性に囲まれる彩乃くんを見ていられる気がする。
これからも行事の前後に2人の時間を作ってもらえると、私の心は落ち着いていられるのかも。
……ワガママかな?