彼は藤娘

「ビールが飲みたくなるな。」
ベーコンエッグたい焼きを食べると、彩乃くんはそうぼやいた。

「ね~。すぐそこにヱビスの生、売ってるよ。あっちには地ビール。早く20歳になりたいねえ。」
「……詳しすぎるやろ、あき。」

だって、毎年くまなく練り歩いてるもん。
日中は和装小物やよくわかんない会社の在庫一掃投げ売りを見て回って、夜は屋台巡り。
中学に入って定期券を手に入れてからは、祇園祭期間は鉾町ほぼ日参。
学校の行き帰りに寄るから、無言詣はさすがに無理だが。

「シードルぐらいならいいかな?」
「それより飯、行こう。せっかく祇園祭やねんし、鱧(はも)、食いたい。」
……彩乃くん……高校生のデートの範疇超えへん?それ。
「鱧……どこ行くの?」

まあ、私も彩乃くんも高校生のくせに過分なバイト代をもろてるから、多少なら張り込めるけど……何もこのバカ高い期間に食べなくても……。

彩乃くんは、うーんと少し考えてから、どこぞに電話をかけた。
「もしもし。芳澤流の彩乃です。いつもお世話になってます。……はい……はい……ああ、そうですか。……ええ、これから、よろしいですか?いや、うまい鱧があればいいです。はい。お願いします。」
電話を切ると、彩乃くんは私の手を引いて歩きだした。
「家元が好きな割烹、カウンターやったら空けてくれるって。」

カウンター割烹……。
この人は……ほんまに……「ええしのぼんぼん」やわ……根っから。
お継父さまの影響か、普段の言葉遣いや態度はどっちか言うと無頼やのに。

彩乃くんに連れられて来たのは、祇園祭の喧噪からかなりはずれた木屋町四条下ル。
打ち水された路地の奥、ひっそりとした佇まい。
……ここ、浴衣で、それも高校生が来ていいとこちゃうよ~。

平然と玄関の引き戸を開けて暖簾をくぐる彩乃くんの後ろにくっついてお店へ入った。
明るい白木の一枚板のカウンター、大将らしき板前さんの後ろの作り付けの棚もお揃いの木。
清潔感と高級感溢れるお店の雰囲気に、ポカーンとしてしまう。

「いらっしゃい。珍しいお客さんね。お友達?」
女将らしき綺麗な年配の女性がそう言いながら、よく冷えた香り高いほうじ茶を出してくれた。
「いや。次の家元夫人。媚びとけよ。」

彩乃くん!?
何てぞんざいな言葉遣いで……すごいこと言うん!

思わず私は深々と頭を下げたよ。
「すみません、失礼なことを。それに突然お邪魔してしまって。」

女将は彩乃くんには快濶に笑ってたけど、私の事は値踏みしてる目で見てた……そりゃそうだろうよ。

お料理は、確かにすごく美味しかった。
噂の鱧は、湯引き、天ぷら、葛寄せにしてあり、どれも絶品だった。

しかし、女将が女将なら、大将も大将。

お箸の上げ下ろしから一品一品の感想まで全て注視されてたよ、彩乃くんが余計なこと言うから!もう!