しかし、今まで特に何も言わずに普通にいただいてたつもりなのに……彩乃くん、私があまり羊羹を好きではないことに気づいてたんだ。
うれしい……。
せっかくなので、お抹茶をたてて2人で楽しんだ。
「燈子ちゃんは?」
まだ残ってはるなら誘おうかと尋ねると、他の社中さんに誘われて帰ったらしい。
「土曜の午後は学生とOLが多いから、すぐ仲良ぉなれてええんちゃう?」
彩乃くんが副家元の顔でそう言うのが、何だかおかしかった。
大好きな「したたり」は、黒砂糖のコクと香り、和三盆の上品な甘みが渾然一体となり、やっぱり美味しい。
「昔と違って通年買えるけど、やっぱりこれは祇園祭のお菓子よね~。」
お抹茶とのマリアージュを楽しみながら私はうっとりと感嘆する。
「今日はもうお稽古終わりやから、行く?鉾町。」
彩乃くんが誘ってくれたので、私は諸手を挙げた。
「行く~!やった~!」
祇園祭と言えば、夜のおデート!
浴衣でそぞろ歩くだけやけど、うれしい!
「めっちゃうれしいよ~。祇園さんっちゅうたら合コンしか行ったことない。わーい♪おデートだ~。」
浮かれてつい余計なことを言ってしまったことに気づいたのは、彩乃くんに変な目で見られてから。
しまった!
「……へえ。合コン、ね。あき、そんなもん行ってたんや。」
彩乃くん、どん引きしてる。
「や!だって、どうしても、誘われたら断れへんかってんもん。複数でご飯食べて歩くだけやで?ほんまに!」
「ふ~ん。」
彩乃くんはそれっきり黙って帰り支度を始めた。
……置いて行かれる?
私は慌ててお茶のセットを片付ける。
「彩乃くん?浴衣どれがいい?」
ご機嫌を取るわけじゃないけど、着物の見立てはいつもお家元か彩乃くんに相談するようにしているので今回も聞いてみた。
彩乃くんは、扇子でパタパタ扇ぎながら、
「お好きにどうぞ。」
と言った!
うーわ!めっちゃ嫌(や)な感じ!
さすがに私もムッとした。
白地に銀色の糸菊模様の浴衣に、藤色の博多帯を選び、隣の部屋で着替えた。
「これでいい?」
すると彩乃くんは、顔をしかめて私に近づくと、無言で左手を私の肩に置き、右手で右袖を思いっきり引っ張った。
右肩の縫い目が裂けて、袖がちぎられてしまう。
あまりのことに、私は目と口を大きく開けて呆然とした。
な、なにしはるん?
歌舞伎の「夏祭浪花鑑」で、こんな風に袖をちぎって交換する場面があるけど……それとは明らかに違うよね。
彩乃くんは、引きちぎった袖をポイッと放り捨て、和箪笥から藍染めの蝋纈(ろうけつ)の菊の柄を選んだ。
「こっちに着替え。帯はそのままでもええから。」
「……何も、破らんでもええやん……もったいない……」
片袖を拾ってそう言ってると、勝手に涙が浮かんできて頬をつたった。
うれしい……。
せっかくなので、お抹茶をたてて2人で楽しんだ。
「燈子ちゃんは?」
まだ残ってはるなら誘おうかと尋ねると、他の社中さんに誘われて帰ったらしい。
「土曜の午後は学生とOLが多いから、すぐ仲良ぉなれてええんちゃう?」
彩乃くんが副家元の顔でそう言うのが、何だかおかしかった。
大好きな「したたり」は、黒砂糖のコクと香り、和三盆の上品な甘みが渾然一体となり、やっぱり美味しい。
「昔と違って通年買えるけど、やっぱりこれは祇園祭のお菓子よね~。」
お抹茶とのマリアージュを楽しみながら私はうっとりと感嘆する。
「今日はもうお稽古終わりやから、行く?鉾町。」
彩乃くんが誘ってくれたので、私は諸手を挙げた。
「行く~!やった~!」
祇園祭と言えば、夜のおデート!
浴衣でそぞろ歩くだけやけど、うれしい!
「めっちゃうれしいよ~。祇園さんっちゅうたら合コンしか行ったことない。わーい♪おデートだ~。」
浮かれてつい余計なことを言ってしまったことに気づいたのは、彩乃くんに変な目で見られてから。
しまった!
「……へえ。合コン、ね。あき、そんなもん行ってたんや。」
彩乃くん、どん引きしてる。
「や!だって、どうしても、誘われたら断れへんかってんもん。複数でご飯食べて歩くだけやで?ほんまに!」
「ふ~ん。」
彩乃くんはそれっきり黙って帰り支度を始めた。
……置いて行かれる?
私は慌ててお茶のセットを片付ける。
「彩乃くん?浴衣どれがいい?」
ご機嫌を取るわけじゃないけど、着物の見立てはいつもお家元か彩乃くんに相談するようにしているので今回も聞いてみた。
彩乃くんは、扇子でパタパタ扇ぎながら、
「お好きにどうぞ。」
と言った!
うーわ!めっちゃ嫌(や)な感じ!
さすがに私もムッとした。
白地に銀色の糸菊模様の浴衣に、藤色の博多帯を選び、隣の部屋で着替えた。
「これでいい?」
すると彩乃くんは、顔をしかめて私に近づくと、無言で左手を私の肩に置き、右手で右袖を思いっきり引っ張った。
右肩の縫い目が裂けて、袖がちぎられてしまう。
あまりのことに、私は目と口を大きく開けて呆然とした。
な、なにしはるん?
歌舞伎の「夏祭浪花鑑」で、こんな風に袖をちぎって交換する場面があるけど……それとは明らかに違うよね。
彩乃くんは、引きちぎった袖をポイッと放り捨て、和箪笥から藍染めの蝋纈(ろうけつ)の菊の柄を選んだ。
「こっちに着替え。帯はそのままでもええから。」
「……何も、破らんでもええやん……もったいない……」
片袖を拾ってそう言ってると、勝手に涙が浮かんできて頬をつたった。



