彼は藤娘

うっとりして、彩乃くんの薄い胸に顔をすりつける。

彩乃くんはそれでもしばらく逡巡してたけど、あきらめたらしく、再び私を抱き上げた。
「きゃっ」
……と、声をあげて首に手を回す。

どうしよう、めっちゃ幸せ。
縁側に下ろしてもらい、手をつないで隣の部屋へ。

しかし、やっぱり一組のお布団は、ものすごーく生々しくて、顔を見合わせて苦笑し合った。
どっちが先に寝転ぶんだろう。
今、枕はど真ん中に1つあるけど、これは少しずらして彩乃くんに使ってもらって、私は彩乃くんに腕枕してもらうべきなのだろうか? 

どうでもいいようなしょうもないことなのに疑問で頭がいっぱい。

「とりあえず、浴衣。使えば?」
彩乃くんが、旅館の浴衣のようなものを取ってくれた。

こんなものまで準備されてるのか。
ほんま、すごいな、義人くん家(ち)。

お風呂にも入りたいけど、こんな時間なので諦める。
私は隣の部屋に戻って、浴衣を身にまとった。

お部屋に戻ると、彩乃くんが押入を物色していた。
「やっぱり布団一組しかないわ。」
彩乃くんがため息をついて、掛け布団をめくる。

毛布をズルッと引き出して、
「俺、コレでいいから、あき、布団、使い。」
と彩乃くんは、それでも頑なだ。

「毛布だけやとしんどいよ。」
そう言って、彩乃くんから毛布を引っ張って奪った。

5月とは言え、山際なので明け方はやはり寒い。
「一緒に使おう。」

彩乃くんは、それでもやっぱり困っていた。
……そんなに大変なものなのかな……やりたきゃやればいいのに……。

私は毛布にくるまってみる。
「これなら?簀巻きになってても嫌?」

彩乃くんは眉間に皺を寄せる。
「……嫌じゃないって。ココで今、したくないのに、手ぇ出さへん自信がないだけ。」

そう言って彩乃くんが簀巻きの私を抱き寄せた。
両手が使えずバランスが取れないので、彩乃くんに完全にもたれかかってしまう。
……倒れる、倒れる……

彩乃くんは身動きのとれない私をそっとお布団に寝かせてくれた。
……ほんまにこのまま簀巻きで寝ろってか?
冗談のつもりだったのに……これじゃ、芋虫の気分。

「朝、起きたらカフカの『変身』になってたらどうしよう。」
「あほか。」
そう言いながら、彩乃くんが簀巻きの私にお布団をかけてくれる。
「枕、使い……はっは!」

私に使わせようと枕を取り上げた彩乃くんが、変な笑い方をした。

首を伸ばして見ると、枕の下に準備されていたのは6枚綴りのコンドーム!
……義人くん……マジか……。

「はじめて見た。」
恥ずかしいよりも興味が勝ってしまい、ついジーッと見てしまう。

「見るな。」
彩乃くんはビラビラ~ッと続くソレを慌てて敷き布団の下に隠して、室内灯を消すと私に背を向けてお布団に入った。

……え~……何か、淋しい。
そりゃ、こっち向いてはっても恥ずかしいと思うけど。
せめて背中に触れたいのに、簀巻きのせいで動けない。
う~~~。

私はせめて、と、額を彩乃くんの背中にくっつけて目を閉じた。