彼は藤娘

「や~。彩乃くん、思い通りになってくれる人じゃないで。頑固でマイペース。」

「そういうとこもあるね、確かに。」
うなずいてからセルジュはくすくす笑って続けた。
「それに、めんどくさいぐらいロマンティスト……でしょ?」

「……そうかもしれん。いっぱい考えてくれてるみたいやけどなかなか伝わって来ぃひんから、わかりにくくて……めんどくさい?」
セルジュとそう言い合って一緒に笑ってると、義人くんが首を突っ込んできた。

「彩乃のことやから、何するにも、いちいち、ロケーションとかタイミングとかめっちゃ理想持ってそう!ファーストキスは夕日の沈む海辺で、とか?」

「乙女!?」
思わず笑ってしまった。

「観覧車の中とか!」
「花火大会は?」
……って、奈津菜や燈子ちゃんまで、まるでクイズか予想のように……。

「レースのカーテンが揺れる高原のペンションとか~、波の音が聞こえる海辺のホテルとか~……」
遙香にいたっては、ファーストキスじゃなくて初体験の場所じゃないか?

「まあ、彩乃的に絶対ないのは、衝動的に稽古場で~、だろうね。」
セルジュまで!

「ああ、それは絶対ないない。あいつがゴム持ち歩いてるわけないし。」
ゴム……コンドーム……はは……は。
かく言う義人くんは、常に持ってそう……。
いや、勝手なイメージやけど。

「あ、そうか。……それで昨日からギクシャクした?」
義人くんにそう指摘されて、私はぶるぶる首を振り続けて……ちょっと泣いてしまった。



彩乃くんが到着したのは、22時前だろうか。
食べて飲んで歌って一通り大騒ぎしたせいか、みんな寝てしまっていた。

「すげぇな……」
彩乃くんのつぶやきで目覚めたのは、お酒を飲んでなかった私と義人くんと、一番たくさん飲んでたけどお酒に強いセルジュ。
あとは高いびきをかいているところを見ると、やっぱり飲んでたらしい。

「おかえり。パーティーどうだった?」
義人くんがそう言いながら小さな冷蔵庫から取り出したのは、缶ビール!

薄い大きめのグラスにトポトポとつぐと彩乃くんに手渡した。
「あきちゃんも、飲む?」

「……飲んだから帰れへんし……てか未成年やし……」
そう言ってみたけど、安らかな友人たちの寝顔を見てる限り、もう今夜はみんなでお泊まり……か?

「燈子ちゃんと奈津菜ちゃんのお家に電話してあげて、あきちゃんも泊まっちゃえば?」
セルジュがそう言いながら電話の子機を差し出した。

義人くんも、私にもビールをついだグラスを差し出す。
私はため息をついて、両方を受け取った。

「じゃ、3回めの乾杯。彩乃、おつかれさま。」
彩乃くんと義人くんはビールを飲み干し、セルジュは泡が少なくなったシャンパンを飲み干した。

私はちびりと舐めて、グラスをテーブルに戻すと、諦めて隣の部屋に移動して電話をかけて回った。