彼は藤娘

案内されたのは、今が盛りと咲き誇る藤棚のすぐ前の「離れ」。
既に、ケータリングの洋食やお寿司などなどお料理を準備してくださっていた。

「適当に食ってて。妹に遙香の着替え借りてくるわ。」
義人くんがそう言って母屋に行こうとするので、慌ててついていく。

「あきちゃん、どしたん?」
「や、代表してご挨拶。いきなり来てしもたし。」
「……別にいいのに。あきちゃんらしいけど。あ、由未~。服一式と靴貸して~。」

私がお母さまにご挨拶している間に、義人くんはテレビを見ていた妹さんにお願いしていた。
「あ!彩乃さんの……。あきらけいこさん!」
……何でそっちで覚えてるかな。

「こんばんは。急にお邪魔してしまってごめんなさい、由未ちゃん。私の友達ねんけど、慣れへん着物で来てるくせに泊まりたいらしいねんわ。ジャージでいいし貸してやってくれへんかな?」
遙香が聞けば怒るだろうな、と思いつつそう言った。

「誰?夜遊びのメンバー?」
由未ちゃんの質問に義人くんが苦笑いしてうなずいた。

「……いいけど。あきらけいこさんも泊まって?」
え……。

「だって夜遊びのメンバー、苦手やもん。チャラチャラしてて。」
あ~。
由未ちゃんの気持ちが容易にわかるような気がして、私はうんうんとうなずいた。

「え?あきちゃんも泊まる?……それは……おもしろいかも……」
義人くんがよからぬ事を考える顔になった。

「いや、帰ります。親にも言うてきてへんし。」
慌てて首をぶんぶんと横に振った。

「じゃ、すぐ電話しよし。彩乃も喜ぶわ。ふっふっふ。」
や、やらしい笑いしてる!

「帰る。マジで帰る。」
私が半泣きで首を振り続けてる間に、由未ちゃんは服の準備をしてきてくれた。
フリーサイズのワンピースとミュールを預かり、お母さまにもお礼を言って辞去。

「お部屋はなんぼでもあるし、遠慮せんと泊まっていってね。何もおかまいはしませんけど。」
いや、充分、至れり尽くせりです……。

藤の「離れ」に戻ると、既に宴会状態。
セルジュもいるのに、女子会のようになっていた。

「あ!飲んでる!」
またしてもセルジュが怪しげな瓶を手元に置いている。
セルジュはしょっちゅう義人くん家(ち)に泊まりに来るので、わざわざセルジュの好きな銘柄のワインやシャンパンを常備しているらしい……って、フランスでは飲酒年齢に達してても日本じゃあかんて。