彼は藤娘

……そう言えば、彩乃くんの歩き方、途中でガラッと変わったっけ。
最初はふわふわ千鳥足やったのが、いつの間にか重いぎこちない足取りに変わってた。
絶望感の表現も格段に大きく変わった気がする。

彩乃くん、怖い。
燈子ちゃんが苦しんでたのをそういう目で見てたんや……。

て、ことは?
私も?

……なんか、私たちの恋愛そのものも、しっかり芸の肥やしにされてる……気がする。

燈子ちゃんは、涙を拭いて立ち上がると舞台に降りた幕を掲げた。

「燈子ちゃん!?」
予想外な行動に驚いたが、さらに燈子ちゃんは舞台に上ると、幕の向こうへ入ってしまった。

ぽかーんと見送ってしまったけど、大変じゃない!?

「燈子ちゃーん!?」
さすがに舞台に上がって追いかけるのはためらわれる。

「こっちから楽屋行けるし。」
義人くんに案内されて、楽屋のほうへと入って行った。

既にほとんどの出演者は楽屋を出てて、残っているのはわずかとは言え、他に社中さん達もいるので燈子ちゃんの名前を呼ぶわけにはいかない。
セルジュと義人くんが彩乃くんの部屋へとまっすぐ進んでいくので、私たちも後を追いかけた。

「……いた」
義人くんが少しだけのれんをめくってくれると、鬘とお衣装は脱いだもののまだ白塗りのまんま浴衣に着替えたちょっと笑える彩乃くんと燈子ちゃんが向かい合って立っていた。

「日本舞踊ってもっと綺麗で大人しいもんやと思ってた。ヒトの痛みをよくも勝手に自分の芸の肥やしにしてくれたもんやわ。」
言葉はクールなのに、燈子ちゃんの目は爛々と光っていた。

怒ってるというよりは……燃えてる?

「目の前であんなもん見せつけられたら、な。本気になるやろ、そりゃ。……お互い様?通じた?」

彩乃くんの言葉に燈子ちゃんがうなずいた。

はいー!?
何を2人は通じ合ってはるんですか?
不思議と嫉妬はひとっつも感じないけれど、狐につままれた気分。

「ほな、よかった。半分成功。ありがとう。」
彩乃くんがそう言って、手拭いを手に取り、顔を洗いに行こうとこっちへ向かってきた。

慌てて義人くんがのれんから手を離し、私たちも廊下へ散る。

「……私も、踊りたい。こんな足やけど、入門できる?」
中から燈子ちゃんの決意を込めた言葉が聞こえてきた。

えええええっ!?

彩乃くんも驚いたらしい。
「なんで?」
と、歩みを止めて振り返っていた。

再び私たちは参集し、のれんの隙間から楽屋を覗く。

「飛んだり跳ねたりしなくても、無限に表現できるってわかったから。」
燈子ちゃんがそう言うと、彩乃くんは首をかしげた。
「ダンス部復帰して、無理のない振り付けで踊ったほうがええんちゃう?それかヨガとかフラとか、今までのを活かせるほうが」

「無理のない振り付けで舞台に乗っても私はつらい。体を動かしてればいいわけじゃないから、他のダンスに興味ない。」
燈子ちゃんは彩乃くんの言葉を遮ってそう言い切ると、楽屋の畳に座った。