彼は藤娘

「はい、これ、チケット。燈子ちゃん、足、大丈夫?無理せんときや。遥香、着物よぉ似合ってるわ。……えーと、この可愛いお嬢さんは?」
私が落ち着いたのを見計らって、義人くんが近づいてきた。

「稲垣奈津菜です。やっと本物見られた!噂通りかっこいいですね。」
決してぶりっ子してるわけでも、媚びてるわけでもなく、普段通りの奈津菜なのにかわいらしいなっちゅん。
醸し出す雰囲気も、いかにも「お嬢さま」だ。
こういう無垢っぽいタイプは、義人くんは手出ししづらいらしく、セルジュのほうが食いつきがよく見える。
ま、佐野先生に一途な奈津菜は、遥香と違って、他には目がいかないだろうけど。

「あきちゃん、終演後は?お友達とご飯でも行くん?」
義人くんにそう聞かれて、私たちは顔を見合わせた。

「決めてへん。今日はパーティー出んでいいみたいやし……そやね?どっか行く?」
当然のように、終演後にはパーティーがある。
でも、出演者とその師匠達、幹部が出席する程度で、去年の秋より小規模のようだ。
彩乃くんは当然出席するけど、私は何も言われてないし、着物も無地だからたぶん行かなくていいのだろう、と勝手に判断している。

「行く!はいはーい!義人の家で遊ぼーっ!」
遥香が手を挙げて、そう言った。

「こらこら。そんなん、急にあかんて。」
燈子ちゃんが、遥香を窘める。

けど、義人くんはセルジュを見てから、うなずいた。
「いいけど。どうせ今晩はセルジュも泊まるし、彩乃もパーティーの後で来るように言うわ。燈子ちゃんとあきちゃんは近いし夜、送ってあげられるし。奈津菜ちゃんは家どこ?」
「城陽。近鉄沿線。」
「ん~、遠いか。京都駅までか、それかいっそ泊まってってくれてもいいよ?」

奈津菜がしばし考えてる間に、遥香が再び手を挙げた。
「はーい!泊まるー!」
……遥香、そんなにぐいぐい押すのって、義人くんには逆効果な気がするわ。

「はいはい。遥香は好きにすればいいから。……襲うなよ。」
義人くんにそう言われて、遥香はきゃっきゃきゃっきゃはしゃいでいたが、残りはどん引きしていた。

てか、遥香、着替えもないよね?
着物で泊まるのか……着付けできるんやろか……。
色々心配だわ。

開演時間が近づいたので、客席へ移動する。
「近っ!すごっ!」
燈子ちゃんが驚くほど、舞台に近い。

「遥香、寝るなよ。」
義人くんにそう言われて、遥香はまた声をあげていた……とにかく、かまってもらえればうれしいわけね。
かわいいとは思うけれど、やっぱり義人くんの恋愛対象にはならへんような気がする。
遥香が珍しく熱心に続いてるだけに哀れだ。