けど、私は身をよじって逃げてしまった。
「あきー……」
彩乃くんが途方に暮れた顔をして情けない声を出す。
「や、ごめん!ちゃうねん!うれしいねん!でも、お衣装汚れるし!涙と鼻水で染みになってしまう!」
私が慌ててそう言うと、彩乃くんはムーッとした顔でお衣装をポイポイ脱ぎ捨てた。
「皺になるっ!」
慌てて私が小袖を拾いに寄ると、小袖を抱えた私を彩乃くんが抱きしめた。
ひーっ!!!
じたばたしたい!
でも動けない!
「小袖、邪魔。」
彩乃くんの片手が私のかき抱いている小袖を取り上げて、ポイッと放り投げる。
「……明日のお衣装やのに……」
「後でいい。」
両手できゅーっと抱きしめられる。
絹の長襦袢が気持ちいい。
恐る恐る、私も両手を彩乃くんの背中に回した。
うっとりしてると、頭の上で彩乃くんがため息をついた。
「やばい……」
「小袖?」
「……小袖はいいから。歯止めきかへんくなりそう。」
「歯止め?」
「あきが、欲しい。」
「うん。」
……返事をしてから、あれ?それって、そういう意味?と、思い当たった。
ま、いっか。
私はたぶん幸せすぎて、頭に靄(もや)がかかっていた。
彩乃くんの望み通りに。
それが私の望み。
しばらくして、再び上からため息が聞こえた。
見上げると、彩乃くんが真っ赤になって困ってた。
「……頼むから、煽らんといて。」
煽ってるつもりは、ないんやけど。
彩乃くんは私を解き放つと、背中を向けて、脱ぎ捨てた小袖や長袴を拾い集めた。
手伝おうと手を伸ばすと
「来(く)んな!」
と言われてしまった。
びっくりして、涙がまた浮かび上がってくる。
「悪ぃ。泣かんといて。……俺も泣きたいわ。マジで、今、やばいから。」
背中を向けたままなのに、彩乃くんには私が涙を浮かべたことがわかったらしい。
複雑な気分のまま、私はお稽古場を出た。
……彩乃くんの言いたいこと、何となくわかる。
わかるけど、淋しい。
今、この場で私にあれ以上、手を出さないのは、彩乃くんの誠意なのだろう。
大事にしてくれているからこそ、衝動を止めてくれてるのだろう。
……でも、私は……。
居たたまれず、私はそのままお家元を出た。
せっかく準備してくださってたお着物を持って帰るのを忘れたことに気づいたのは、電車に乗ってからだった。
……ま、いっか。
明朝、早くにお家元へと向かった。
お借りするはずのお着物は、なくなっていた。
他の荷物と一緒に会場に運ばれてしまったのだろうか。
「あきー……」
彩乃くんが途方に暮れた顔をして情けない声を出す。
「や、ごめん!ちゃうねん!うれしいねん!でも、お衣装汚れるし!涙と鼻水で染みになってしまう!」
私が慌ててそう言うと、彩乃くんはムーッとした顔でお衣装をポイポイ脱ぎ捨てた。
「皺になるっ!」
慌てて私が小袖を拾いに寄ると、小袖を抱えた私を彩乃くんが抱きしめた。
ひーっ!!!
じたばたしたい!
でも動けない!
「小袖、邪魔。」
彩乃くんの片手が私のかき抱いている小袖を取り上げて、ポイッと放り投げる。
「……明日のお衣装やのに……」
「後でいい。」
両手できゅーっと抱きしめられる。
絹の長襦袢が気持ちいい。
恐る恐る、私も両手を彩乃くんの背中に回した。
うっとりしてると、頭の上で彩乃くんがため息をついた。
「やばい……」
「小袖?」
「……小袖はいいから。歯止めきかへんくなりそう。」
「歯止め?」
「あきが、欲しい。」
「うん。」
……返事をしてから、あれ?それって、そういう意味?と、思い当たった。
ま、いっか。
私はたぶん幸せすぎて、頭に靄(もや)がかかっていた。
彩乃くんの望み通りに。
それが私の望み。
しばらくして、再び上からため息が聞こえた。
見上げると、彩乃くんが真っ赤になって困ってた。
「……頼むから、煽らんといて。」
煽ってるつもりは、ないんやけど。
彩乃くんは私を解き放つと、背中を向けて、脱ぎ捨てた小袖や長袴を拾い集めた。
手伝おうと手を伸ばすと
「来(く)んな!」
と言われてしまった。
びっくりして、涙がまた浮かび上がってくる。
「悪ぃ。泣かんといて。……俺も泣きたいわ。マジで、今、やばいから。」
背中を向けたままなのに、彩乃くんには私が涙を浮かべたことがわかったらしい。
複雑な気分のまま、私はお稽古場を出た。
……彩乃くんの言いたいこと、何となくわかる。
わかるけど、淋しい。
今、この場で私にあれ以上、手を出さないのは、彩乃くんの誠意なのだろう。
大事にしてくれているからこそ、衝動を止めてくれてるのだろう。
……でも、私は……。
居たたまれず、私はそのままお家元を出た。
せっかく準備してくださってたお着物を持って帰るのを忘れたことに気づいたのは、電車に乗ってからだった。
……ま、いっか。
明朝、早くにお家元へと向かった。
お借りするはずのお着物は、なくなっていた。
他の荷物と一緒に会場に運ばれてしまったのだろうか。



