「ありがとうございます。」
と、綺麗なお姉さんに綺麗な標準語でお礼を言われて、面食らう。
「いえいえ。明日、頑張ってください。何に出はるんですか?」
そうお伺いすると、「手習子(てならいこ)」とおっしゃって、私が何を踊るのかも聞かれた。
「私はお手伝いだけなんです。客席から拝見してますね。」
私の言葉で、彼女の顔がさっと変わった。
「……もしかして、副家元の?」
お姉さんにそう聞かれて、私は手を滑らせそうになった。
危ない危ない。
……てか、ここは明言も否定もせずに、曖昧にしとくべきだよね。
口を開こうとした時に、肩にどーんと重たいものがかぶさってきた。
「はい、そうです。お疲れさん、あとはこっちでやるからもういいよ。明日の朝、遅刻せんようにお願いします。」
振り返るまでもなく、彩乃くん。
彼女は赤くなって、微妙な笑顔を張り付けて会釈して帰っていった。
「……人前でこういうのはいかがなものかと思います……副家元。」
おんぶお化けのように私の背に貼りつく彩乃くんに、一応そう意見する。
「だって、あいつ、俺に色目使ったり、やたら触ってきたり、うざかったやもん。」
ほ~。
あんな綺麗なお姉さんにもモテるのか~。
そりゃ心配だなあ……ははは。
……てか、これはハグとは違うよねえ……うーん、また微妙な……。
とりあえず、湯のみ片付けてしまおう。
「彩乃くん、これ、片付けるから、放して。」
そう言った私自身の声が硬質なことに、自分で驚いた。
もしかして、嫉妬、してるんだろうか、私。
そんな必要ないのに。
彩乃くんは、ちゃんと意志表示してくれてるのに。
我ながら、心、狭いわ。
私がしょんぼりしてるのが伝わったのだろうか、彩乃くんはおとなしく私から離れると
「待ってるし早よ来てな。あきに見てほしいねん。」
と、淋しそうに言ってお衣装に着替えに行った。
……ダメだ。
私も彩乃くんも、不安定過ぎる。
2人で一緒にいる時はとても穏やかで満たされて幸せなのに、どうして他の人が少しでも絡むとこんなにも動揺するのか。
彩乃くんは私に病的に執着してはると思っていたけど、私も同じ。
どんなにお互いの時間を雁字搦(がんじがら)めに縛り合っても、足りない。
365日24時間一緒にいることなんてできないのに。
信じてないわけじゃ、ないのに。
湯のみを全て片付けると、私はお稽古場に戻った。
社中さんはみんな帰り、お家元も、幹部の先生がたとの会食へ行かれたそうだ。
彩乃くんはお衣装を付けて、正座して目を閉じていた。
絶世の美男を表す露芝(つゆしば)文様の衣装の肩肌を脱いで……化粧なんかしなくても、鬘なんかかぶらなくても、色気だだ漏れだよ、彩乃くん。
そりゃ、あのお姉さんじゃなくたって、目の色変える女、多いよ。
そう思うと、私の心がまたざわざわと波立った
と、綺麗なお姉さんに綺麗な標準語でお礼を言われて、面食らう。
「いえいえ。明日、頑張ってください。何に出はるんですか?」
そうお伺いすると、「手習子(てならいこ)」とおっしゃって、私が何を踊るのかも聞かれた。
「私はお手伝いだけなんです。客席から拝見してますね。」
私の言葉で、彼女の顔がさっと変わった。
「……もしかして、副家元の?」
お姉さんにそう聞かれて、私は手を滑らせそうになった。
危ない危ない。
……てか、ここは明言も否定もせずに、曖昧にしとくべきだよね。
口を開こうとした時に、肩にどーんと重たいものがかぶさってきた。
「はい、そうです。お疲れさん、あとはこっちでやるからもういいよ。明日の朝、遅刻せんようにお願いします。」
振り返るまでもなく、彩乃くん。
彼女は赤くなって、微妙な笑顔を張り付けて会釈して帰っていった。
「……人前でこういうのはいかがなものかと思います……副家元。」
おんぶお化けのように私の背に貼りつく彩乃くんに、一応そう意見する。
「だって、あいつ、俺に色目使ったり、やたら触ってきたり、うざかったやもん。」
ほ~。
あんな綺麗なお姉さんにもモテるのか~。
そりゃ心配だなあ……ははは。
……てか、これはハグとは違うよねえ……うーん、また微妙な……。
とりあえず、湯のみ片付けてしまおう。
「彩乃くん、これ、片付けるから、放して。」
そう言った私自身の声が硬質なことに、自分で驚いた。
もしかして、嫉妬、してるんだろうか、私。
そんな必要ないのに。
彩乃くんは、ちゃんと意志表示してくれてるのに。
我ながら、心、狭いわ。
私がしょんぼりしてるのが伝わったのだろうか、彩乃くんはおとなしく私から離れると
「待ってるし早よ来てな。あきに見てほしいねん。」
と、淋しそうに言ってお衣装に着替えに行った。
……ダメだ。
私も彩乃くんも、不安定過ぎる。
2人で一緒にいる時はとても穏やかで満たされて幸せなのに、どうして他の人が少しでも絡むとこんなにも動揺するのか。
彩乃くんは私に病的に執着してはると思っていたけど、私も同じ。
どんなにお互いの時間を雁字搦(がんじがら)めに縛り合っても、足りない。
365日24時間一緒にいることなんてできないのに。
信じてないわけじゃ、ないのに。
湯のみを全て片付けると、私はお稽古場に戻った。
社中さんはみんな帰り、お家元も、幹部の先生がたとの会食へ行かれたそうだ。
彩乃くんはお衣装を付けて、正座して目を閉じていた。
絶世の美男を表す露芝(つゆしば)文様の衣装の肩肌を脱いで……化粧なんかしなくても、鬘なんかかぶらなくても、色気だだ漏れだよ、彩乃くん。
そりゃ、あのお姉さんじゃなくたって、目の色変える女、多いよ。
そう思うと、私の心がまたざわざわと波立った



