彼は藤娘

「ちなみにゴールデンウィーク後半忙しい?5月3日に彩乃くんも出る発表会があるねんけど、見に来る?」
一応、奈津菜や遙香にも声をかけてみた。

すると燈子ちゃんは予定通り参加、遙香は義人くん狙いで参加、意外にも奈津菜も来るらしい。
なんか、めっちゃうれしい!

「場所は、甲部歌舞練場。私は当日のお茶出しを手伝うから、一緒には行けへんけど、是非お茶飲みにきてね。舞台がよぉ見えるように前のほうの席もらっておくし。」

「……大変そう。手伝おうか?」
奈津菜がそう言ってくれて、ますますうれしくて、じーんときた。

「ありがと~~~。でも勉強になるし大変なだけじゃないよ。お手伝い、頼みたいけど、私と一緒やと居心地悪い想いするかも。せやし、いいよ。」

燈子ちゃんが私の言葉に眉をひそめた。
「あきちゃん、イジメられてるん?」

私は慌てて手を振った。
「まさか!そこまでの存在でもないし!……単に……ん~、ヨソ者やしね。」

まあでも、春の発表会には師の師は出ないので、お茶出しの統轄をしてくれるらしい。
彼女がいれば、たぶん私はかなり楽な気持ちでお手伝いもできると思う。

「ところで服装は?洋服で行っても浮かへん?」
燈子ちゃんが恐る恐る聞いてきた。

「うん?確かに和装の人多いけど、洋服でも全然大丈夫。でも、ジーパン却下かな。あと、ミニスカもやめときや。」
最後は、遙香のほうを見てそう言った。

遙香は胸を張った。
「私、着物着る~。」

ほう!
「どしたん?いや、いいと思うよ。歌舞練場はお庭も素敵やし。写真撮っても映えるで。」

「よし!じゃ、目標!義人とツーショット!」
遙香が鼻息荒くそう決意してるのが、妙にかわいかった。

放課後、少しだけコーラスの練習をした。
「グリーンスリーブスってこんなに女々しい歌詞やってんね……うざいわ、こいつ。」
燈子ちゃんらしい感想だけど、確かに、諦めきれない想いに七転八倒してる。

♪Ah, Greensleeves, now farewell, adieu♪

と、永遠にさようなら、と別れの言葉で締めくくるのかと思いきや、最後の最後は

♪Come once again and love me♪

……って、全然諦めとらんやーん!

「まあ、燈子ちゃんみたくサバサバしてたら、人の心を打つ作品にはなってへんやろしね。」
奈津菜がもっともなことを言う。
確かに、この女々しさが胸を打つのだろう。

燈子ちゃんが、ふと思い出したように言った。
「そういや、『保名(やすな)』も、調べたけどすごいね。あの後、失った恋人に似てるって理由だけで、恋人の妹に化けた狐と作った子供が安倍晴明って?」

……そんな身も蓋もない……。

「ま、歌舞伎舞踊やからね。荒唐無稽も魅力なんよ。とりあえず、今回は、恋人を目の前で失って狂ってしまった、ってことだけ理解してくれてたらいいし。」

「ほな、ふぇあうぇる、あでゅー!明後日ね!」

……グリーンスリーブスの歌詞は、それからしばらく私たちの別れの挨拶として使われた。