翌朝目が覚めると、隣に凛子の姿はなかった。俺は慌ててバスローブを羽織ると、浴室やトイレをくまなく捜したが、彼女の姿は何処にもなかった。テーブルの上に目をやるとホテルのメモ帳に書かれた置き手紙が残されていた。

明彦へ
昨日はきてくれて嬉しかった。
でも、私にはもう明彦の太陽になる資格はありません…明彦に再び出逢う事ができて、本当に幸せだった。今まで有難う。必ずイギリスへ行くと約束して。私の最後のお願いです。さようなら。
凛子

俺は急いで服に着替えバッグを持つと、走ってホテルを出た。
昨夜から降り出した雨の中、俺は凛子の姿を追い求め何時間も渋谷の街を彷徨った。
途中、彼女の携帯電話に何度も電話をしたが一度も繋がらず、不安になった俺は矢沢に電話をした。
「あっ、矢沢?」
「山口君!今ちょうど連絡しようと思ってたところ。昨日、凛子は見つかった?」
「ああ、例の店で見つけたよ」
「それで凛子は、無事だったの?」
「……うん、ちょっと酔っ払ってたけど、大丈夫だ」
俺は嘘を言った。
「本当に?何もなくて良かった」
「それがさ、昨夜仕方なく、俺達近くのビジネスホテルに泊まったんだけど、朝起きたら凛子が部屋からいなくなっててさ…矢沢の所に何か連絡があったら、直ぐに教えてくれないか?」
「それどういうこと?」
「俺にも理由は分からないんだ。とにかく凛子から連絡があったら、直ぐに電話してくれ!頼む」
「分かった。あたしからも電話とメールしてみるよ。連絡が入ったら、直ぐに電話するから!」
「悪い、お願いする」
その後、笹井からも電話があったが、同じく凛子からの連絡は何もないという答えしか返ってこなかった。
夕方になって俺は凛子の家に行ってみた。何度チャイムを鳴らしても留守にしているのか、誰も出てはこなかった。結局その日、俺は彼女の姿を見つける事ができなかった。その翌日も翌々日も凛子からは何の連絡もなく、家にも行ったが彼女の家は留守だった。

三日目に凛子の家を訪ねると、やっと彼女のお母さんが出てきた。
「あら、山口君、お久しぶりね。どうしたの?」
「あの、凛子はいますか?」
「それがね、私達、凛子は結衣ちゃん達と出掛けるって言うものだから、三人で三日間、蓼科に旅行に出掛けてたんだけれど、昨夜帰ってきてみたらあの子、具合が悪いって言って、部屋から一歩も出てこないの。何かあったのかしら?山口君、何か知ってる?」
凛子のお母さんは、まだ何も知らない様子だった。
「いいえ。僕も凛子とずっと連絡が取れなくて心配してきてみたんですけど、部屋に篭りっぱなしなんですか。凛子と話をさせてもらうことはできませんか?」
「あのね、山口君が訪ねてきても、帰ってもらってって。あなた達、喧嘩でもしたの?」
「ちょっと色々あったもので。凛子に僕がきたことだけ、伝えてもらえますか?」
「分かったわ、必ず伝えておくから。受験勉強忙しいんでしょう?毎日暑いけど、身体に気を付けて頑張ってね!」
「はい、有難うございます」