俺は教室の窓から校庭を眺めていた。
凛子の空色の傘が紫陽花の花の色と溶け合い、淋しげにゆらゆらと揺れていた。降りしきる雨の雫が彼女の傘を濡らして行く。俺は堪らず窓際を離れた。凛子はきっと俺に、『行くな』と言って欲しかったに違いない。だが、俺には言えなかった。
受験勉強が忙しく心の余裕を失くしていたこともあったが、凛子を何処にも連れて行ってやれないもどかしさと、何より凛子が他の男と出掛けたいと言った事が許せなかった。
俺は席に戻り勉強を続けようとしたが、なかなか集中する事ができなかった。ノートの上にシャープペンシルを放り投げると、机の上に突っ伏した。目をつむると凛子の悲しげな瞳が俺を苦しめた。
凛子は一時間目の授業が始まるギリギリに教室に戻ってきた。あの後、ずっとひとりで泣いていたのか、目元が赤く腫れていた。

それからの一週間、俺達は昼食こそ一緒にとったものの、一言も口を聞かなかった。
「ねぇ、凛子と山口君、喧嘩でもしてるの?何だか最近、様子がおかしいよ」
良く気の付く笹井が俺に聞いてきた。
「いや、別に」
「だって凛子、この一週間、全然元気ないし」
「そんな事ないよ」
「いよいよ明後日だね、鎌倉。超、楽しみー!あたし達、女三人で鎌倉を楽しんでくるんだ」
矢沢はそんな嘘を言った。
俺は矢沢に尋ねた。
「鎌倉は何処を回る予定なんだ?」
「まずはあじさい寺でしょ、それに鶴岡八幡宮を見て、由比ヶ浜にも足を伸ばす予定」
「こっちには何時くらいに戻ってくるんだ?」
「さぁ、時間なんて分からない」
「まぁ、たまには女三人で楽しんでくればいいじゃん」
何も知らない輝が呑気な声で言った。
「なぁ、カメラ持っていくんだろ。写真一杯撮って見せてくれよ」
純也が笹井にそう言った。
「うん、いいけど別に…」