結局、明彦は暫くの間、柴田先生の家にお世話になることになった。
その日の昼休み、私と明彦はふたりで昼食をとっていた。
「本当に柴田先生の家で大丈夫なの?」
「うん。先生にまた飯を作ってくれって、逆に頼まれちゃったよ。留学のことも、色々と相談したいしさ」
「そうね、先生に色々、相談したらいいわ」
「そういえばさ、今度の日曜日、凛子もうちの母さんと会うのか?」
「うん。そのつもりだけど」
「俺も一緒に行ってもいいかな?」
「勿論よ、じゃあ母にも言っておく。お母様も、きっと心配している筈よ」
「母さんにも、留学の話をきちんとしようと思ってる」
「それがいいと思う」
「凛子」
明彦は飲み掛けていた水のコップをテーブルに置くと、頬杖を突いた。
「凛子は俺がもし留学したとして、本当にひとりで大丈夫か?」
「大丈夫よ。心配しないで」
「そうか。俺自身、凛子と離れ離れになることだけが不安なんだ。俺さ、親父と兄貴が死んでから、ずっと孤独だったんだ。だけどあの日凛子と出逢ってから、その孤独感から嘘みたいに解放された」
「明彦…」
「誰と一緒にいても埋められなかった孤独感を、凛子だけが埋めてくれたんだ」
「私も同じよ。明彦と出逢うまでは、誰かといてもいつも孤独だった。でも今の私は違う。明彦がいなくなることは、正直言って不安だけど、もう孤独ではないもの」

花壇の前で、先に昼食を終えた結衣と輝、それに博美と純也達が、ふざけ合っている姿が見えた。
「博美と中原君、最近、付き合い始めたみたいよ」
「そうみたいだな。純也も言ってた」
私達は暫くの間、互いの瞳を見つめ合った。
「明彦はいつも私の心の中にいるから」
「俺も凛子が心の中にいつもいる」

純也がこちらを見て手招きをしている。私と明彦は席を立ち、皆のもとへと駆け寄った。
「ねぇ、修学旅行の練習!みんなで一緒に写真撮ろうよ。凛子と山口君は真ん中!」
結衣がそう言うと、純也がカメラを構えた。
「もっと詰めなくちゃ、みんな入んないよ。じゃあ、取るぞ!はい、チーズ」
日に日に思い出が積み重なって行く。私達はその後も校庭のあちこちで写真を撮った。