『何だよ狩成 エクスって〜』
彼は面倒くさそうにそう言った。
『仕方ないでしょ!誰も覚えてないんだからさ!』
『だからってエクスってな〜。なあ、なんでエクスなんだよ。』
いきなり言われれば誰だってそう思う。でも、この名前は私が時間をかけて(1分)考えた名前だ。今さら変えるつもりはない。
『仮名だからよ!ほら、数学とかでもわからない数をエックスに例えるでしょ?
あれを名前風にしたの。』
『あーだめ。俺数学は苦手だから。』
これである。付き合い始めた一年前から知っていたことだが、彼は会話に苦手なことがでると言い訳を一瞬にして考え言葉にしてしまう。それを直させない私にも責任はあるのだが…
そんなことを話していたら、今日の目的地についてしまった。映画を見ようと前から約束していたのだ。彼は名前以外の記憶は全て残っている(らしい)。
『ほら、さっさといくぞ。』
彼は私の手を握ると受け付けに向かって歩き出した。