最後の賭け

 全ての薬を用意した後、受付の窓口に立つと、真依子は彼を呼んだ。

 淡々と薬の説明をしたあと、耐え切れなくなって思わず呟いてしまう。

「どうしたらそんなボロボロになれるの? 喧嘩でもしたわけ?」

 真依子の口調の変わりように、彼はびっくりしたように顔をあげた。

 それから、擦り傷だらけの右手を出して、顔の前で思いっきり振った。

「違います、違います。喧嘩なんて、僕しません」

 僕。

 そう自分のことを呼んだ男は、顔をあげると必死な様子で真依子を見つめた。

 なるほど、とてもじゃないけれど喧嘩なんてしそうにない雰囲気だ。

 よく言えば優しそうで草食系男子。

 悪く言えば頼りないナヨナヨ男。

「喧嘩じゃないなら、なにをしたの?」

 それでもまだ冷たい態度の真依子に、男は苦笑いをしながら言った。

「仕事中に、熱でフラフラしちゃって……。階段から落ちちゃったんです」

「階段――」

「ついでにいつもの花粉症の薬も出して貰えちゃいました」

 えへへと屈託なく笑った男に、最大級にイラっとした。

 初対面のインパクトと同時に、次に会ったときもユウジは真依子を驚かせた。