「……面白い?」
鳴海はそれ以上はなにも言わなかった。
家に着くと、鳴海はいつも玄関先まで送る。
そして親に挨拶をして帰っていく。
鳴海は、私の前で少しずつ本当の顔を見せ、親の前では礼儀正しい好青年を演じる。
「本当にいい人で良かったわね」
ママが言った。
「……そうだね。お風呂入るね」
そう言ってお風呂に入ると、唇を洗った。
洗っても、洗っても、
感触は消えない……。
『そんなんで俺と結婚出来るの?』
大人になることで、鳴海のように割りきれることができるのなら、早く大人になりたいと思った……。
―11月3日
高校生活最後の文化祭。
私は鳴海を呼んだ。
哲平と戻れないなら、もっと嫌われればいい。
戻れることを期待する自分が、何処かにいたから……。
来賓用の駐車場に、あの目立つ赤いポルシェがとまると、周りの目を引いた。
私はわざとうれしそうな顔をして、鳴海に駆け寄る。
「制服姿もいいね」
「ありがとう」
私は自ら鳴海の腕に、自分の腕を絡める。
鳴海はそんな私の行動にビックリしていたけど、なにも言わなかった。
あちこち回っても、哲平に会うことはなくて、少しホッとしている自分がいる。



