「入院代、払いに行かなきゃ…」

「あっ、金足りないから、もうちょっと待って貰って?」

「大丈夫。まだ貰ってないお給料があるから、それで払うよ。検診もあるし、払っておきたいの」

「…そっかぁ」


私が押し入れの中に置いておいたキャバクラで貰った給料は、里沙が紺野くんに使われて払えなくなった家賃にと、哲平が渡していた。

里沙には色々迷惑をかけたから、反対はしなかった。

私は田中さんに電話する。


「はい。じゃあ、明日お願いします」


電話を切ると哲平が言った。


「明日行くの?」

「今、金庫のカギを持ってないし、用意しとくから明日の昼に取りにおいでって」


明日の昼、例の喫茶店で待ち合わせを決めてくれた田中さん。

あの夜、お店の前で牧野さんが飛び降りる瞬間を見た私に、配慮してくれたんだと思った。

現に私は夜眠れない。
寝ようとすると、牧野さんのあのシーンが映像のように、何度も頭の中を駆け巡る…。

哲平とニュースで見た飛び降り自殺した男は、私の客だったと言える訳もなくて、哲平が帰って来るのを待ってから眠るようにしていた。


「一人で寝るのが寂しい」


そう言えば哲平は心配する事も、知ろうとする事もない…。