「あっ、永久ちゃんだっ!今休憩なの?」
水飲み場につくと、近くの段差に座っていた尾長ちゃんが話しかけてきた。
『うんっ。さっき休憩って言われて、水を飲みに来たんだ。』
そう言いながら私は水を飲む。
「永久ちゃんてバレーだっけ?」
『ん?そうだよ、どうかしたの?』
「そっかー、だからバスケコートにいなかったのかっ。」
ふくれっ面をしながら尾長ちゃんはシュンとしてる。
『あははっ、探してくれたんだ。ありがとねっ。』
その姿が何だか可笑しくて、つい笑ってしまう。
「もうっ、永久ちゃんてば笑ってる!私は真面目に言ってたのにっ!」
『あはははっ、ごめんてばっ。』
そんな話をしながら2人で騒ぐ。
尾長ちゃんが話しかけてくれてから少し経って、私達は頻繁に話すようになった。
教室や休み時間に、制作の話だったり、他愛も無い話だったり、色んな事を尾長ちゃんと話すと全てが楽しくて。私はずっと笑いっぱなし。
だから、尾長ちゃんと話すのは大好きだ。
「あっ、姫野さんここにいたっ。この後の練習自主練って事になったから、帰っても大丈夫だからねっ。」
チームリーダーの子が、わざわざ今日の練習について言いに来てくれた。
『分かった、んじゃお疲れ様っ。』
「はーい!お疲れ様っ、またねっ!」
リーダーの子が手を振りながら走って行く。
元気な子だなぁ………と思いながら、尾長ちゃんの方を向くと、ふと疑問に思った。
『そういえば、尾長ちゃんは練習に戻らないの?』
私は、そう尾長ちゃんに聞く。
体育館ではバスケとバレーの練習試合をしてる音がするし、私が来る前からここにいるみたいだから………
「うん………ちょっとね…………。」
急に暗くなる尾長ちゃんに、私は何かあったんだなと感じた。
『何かあったんでしょ。私で良ければ聞くよ?』
私は尾長ちゃんに優しく言った。
私に話して落ち着くなら、そっちの方がいいもんね。
「うーん…………。何て、言ったらいいか分かんないんだけどね………。」
ゆっくり、絞り出すように尾長ちゃんは話し出す。
「中学の時、付き合ってた人がいて。二ヶ月ぐらいで別れちゃったんだけど………。最近までまだ好きだったの。」
いつも元気な尾長ちゃんから、まさかの恋愛話に少し驚きながらも、私は黙って聞く。
『…………………………。』
「でも、この頃朝学校に来るときに、よく会う男の子がいて。私は普通に挨拶して、向こうも普通に挨拶してくれるんだけど、凄く………凄く優しい笑顔で笑ってくれるの。」
尾長ちゃんの顔は真っ赤で、でも、少し辛そうだった。
『その子の事、好きなの?』
私は尾長ちゃんの方を見ながら、尾長ちゃんがゆっくり言葉を紡ぎながら話してくれるように、ゆっくりと聞いた。
「まだ、わからないの。元彼のことが好きだったはずなのに、あの人のことが気になって………。その中で、元彼と過ごした日々を、気持ちを終わらせたくない自分がいて………、気持ち的には複雑なの。」
辛そうな顔が一層キツくなる。
でも、その中に私は強さを感じた。
尾長ちゃんは、今話してくれた悩みに真正面からぶつかろうとしてる。
辛いだろうに、1人で耐えて考えながら………
その姿は、私に弱音をはいてくれた五木くんと重なる。
それは2人の考え方が似てるってことで。
私が思うに多分2人は、悩んでる事を人に話すことで自分の気持ちを整理するタイプの人なんだ。
五木くんも、私に話した後は全部気持ちに整理がついたみたいだったし。
多分尾長ちゃんもそうなんだ。
それなら、私が言わなきゃいけない事も自然に決まってくる。
『私は、答えは出てると思うけどな。だから、そんなに考えなくていいと思う。』
「えっ………、何で………。』
私が言ったことにハテナを浮かべながら、私に聞いてくる。
『気になる時点で、その人のこと好きなんだよ。元彼のことは、引きずってるだけだと思う。だから、もう考えなくても大丈夫っ。答えはもう出てるんだもんね。』
尾長ちゃんに出来るだけの満面の笑みで私は言う。
五木くんと尾長ちゃんは似てるけど、やっぱり別人で………
私は尾長ちゃんには、少し強めに背中を押してあげる事が必要なんだと感じた。
五木くんの、安心出来る場所を守るように。
「…………………………………。」
ポカーンとした顔で、私を見る尾長ちゃん。
私が言ったことは、私の中での考えだから戸惑っているのかもしれない。
んん、ただ思ったこと言ってみたんだけど………
まずったかな………。
「ふふっ。」
すると、尾長ちゃんが笑った。
「ふふふっ。そんな事言うの、永久ちゃんらしいねっ。確かに、元彼の事は引きずってるだけだったかもしれないな………。」
急に笑い出した事に驚いたけど、尾長ちゃんの顔を見て私は少しホッとした。
さっきまでの辛そうな顔じゃなくて、尾長ちゃんの表情は少し力の抜けたようないい笑顔がある。
「何か、永久ちゃんに話してスッキリした!確かに答えは出てた。ただ、私が元彼の事を引きずって踏み出しきらなかっただけなんだよね。」
スッキリしたのか、背伸びをしながら尾長ちゃんは言う。
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