思って、思って、思い続けて…

8.一番隣にいて落ち着く人
ー夕sideー






カパッ







今はちょうどお昼休み。
俺は仲のいい男子数人と、屋上のたまり場に来ていた。






「そうえば、最近夕の弁当美味そうだよな。この前まで購買のパンだったくせに。」



話しかけてきたのは同じクラスの田辺 勇気[たなべ ゆうき]。



俺が弁当を開けた瞬間に話しかけてきた。



「うるさい。」



「へーへー分かりました。黙って食いますよ。」




俺が少し睨むと、そう言って何事もなかったかのように田辺は自分の弁当を食べ始めた。



確かに、最近姫野と約束して作って貰っている弁当は、限りなく美味い。



それに、次は何のおかずがいいかと聞かれて答えれば、次の日には確実に弁当に入っている。





あいつの料理の腕前は相当で、放課後に腹が空いても他の食べ物を食う気がしなかった。



胃袋を掴まれるってこんな感じか。



最近は頻繁にそう思う。





「そういえば、ずっと聴きたかったんだけどさ。最近一緒に帰ってる女の子いるみたいだけど、誰なの?」




弁当を食べようとしたら、隣で弁当を食べていた黒石 有史[くろいし ゆうし]が聞いてきた。



「田辺といいクロちゃんといい、お前ら俺に弁当食わす気無いだろ。」


「それなら食べながら答えればいいじゃん。いいから早く答えなよ。」



クロちゃんがそう言うと、田辺が早く言えと言わんばかりにこっちを見てきた。




"最近一緒に帰ってる女の子"


それはもちろん姫野の事だ。

弁当箱を返すついでに寮まで一緒に帰っている。




「ただの寮の隣人。」



そういって俺はコロッケを口に放り込む。


相変わらず美味い。




「本当にそれだけ?俺はお弁当もその子が作ってる様な気がするんだけどな。」


「おっ!さすがクロちゃん!もっと聞け聞けっ、夕は俺が言うと怒るし!」




「………………………。」





さっきの返しで話を終わらせるつもりだったのに、静かに食べてた田辺まで会話に入ってきた。




姫野の事を隠す必要はあんまりないけど、言えば田辺とかがうるさそうだからな………





なるべく話したくはない。




俺は黙って弁当を食べる。





「あちゃー、夕怒ったかね………。」



「まぁ、五木は言いたくないことがあると黙るからね。言いたくないだけだと思うし、気にしなくて大丈夫だよ。」






「そうか?ま、それならいいけど。」




「……………………………。」





"クロちゃん"のあだ名がつく黒石 有史は、優しくて真面目なその性格から親しみを込めてそう呼ばれている。



俺もクロちゃんと呼ぶ1人だけど、クロちゃんは感が鋭いからその意味では怖い奴だ。


隠したいことを全部分かっている様な気がするぐらい、凄く感がきく。




まぁ、クロちゃんならバレても言いふらさないだろうからいいが…………




問題は田辺だ。




あいつは口が軽いわけではないが、何も考えずに物を言うタイプだからな。





俺はそんな事を考えながら、最後のコロッケを頬張る。




「うま。」



しまった、無意識に声が出た。



「夕!そんな美味いなら俺にもくれよっ!!」


すると、そう言って田辺が俺が残しておいたハンバーグを食べた。



「何これうまっ!!!!」



「………………………。」



「田辺………。俺は知らないからね。」





クロちゃんが苦笑いで田辺に言う。






「え、あ…………。」






「田辺。ハンバーグ買ってこい。」






「へ?」



「30分まつ。」



「いや、ちょっと夕まっ………。」



「早く行け。」



「い、イエッサ!!!!!!」





そう言って田辺は階段に繋がるドアに向かって走って行った。




「それやっぱりあの子が作ってくれたんでしょ。」




田辺がいなくなると、クロちゃんが聞いてきた………



「……………………。」





クロちゃんはニヤニヤしながら俺を見る。




「田辺も相当分かりやすい奴だけどさ、五木も以外と分かりやすいよね。」




クロちゃんは全てを察したかの様に優しく笑う。




「はぁ、クロちゃんには勝てねぇな。」




「あははっ、それは褒め言葉として受け取っておくよっ。」




楽しそうに笑うクロちゃんをよそに、俺は空を見上げた。




こんなに姫野とのたわいもない約束をひた隠しにするほど、俺の中で姫野の存在が変わってきてるのかもしれない。



田辺達といると面白いし楽だけど、


姫野といると一番落ち着く。




安心できるって言ったほうがいいかもしれない…………




俺は弁当の最後の一口を口に入れる。






「さて、田辺はいつ戻ってくるかな。」




クロちゃんは楽しそうだ。




「ふぅ………。」




こんな事考えるなんて俺らしくねぇな。




心の中でそう思いながら、



俺は屋上のフェンスの所までいってグラウンドを見下ろした………







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