「わわわー、そのフィギュア アニメ化記念限定のメイコちゃんフィギュアじゃないでござるか~! ソレガシ、ネットで予約しようとしたけど売り切れだったでござるよ~!」

汗をかきながら
身を乗り出したのは山田時夫。
すこしきつめの制服がパンパンだ。

「ははっ、まあ、メイコちゃんへの愛の深さだよ。だって時夫、お前 ナナミちゃんにも萌えてたじゃん。」

ここは放課後のアニメ、同人研究会の部室。
通称 オタク部。まわりにはオタ部とか呼ばれている。

部員が少ないため(というかあまりにも立場が弱いため) 校舎の一番上の階のほぼ物置べや状態だった部屋が彼らの城となった。


五階建ての学校の最上階だ、放課後ともなればほぼ誰も上がってきたりしないので
オタ部の部員たちはおもいっきり自由に活動していた。


佐野秋人は、徹夜で探しまくってゲットしたアニメの限定フィギュアを時夫からさっと奪った。
秋人はあきひと、と読むのだが アキトやらアキントとかふざけて間違われていた。
どこにでもいる地味な黒髪の高校生だ。


「ぐはっ。それ言われるときついでござる。
それぞれ萌えポイントがあってだな~~…」

「それよかブラックブラッドのレベル100なっちゃったよ。時夫も今日するだろ?」

「もちろんでござるよー。これ以上アキント氏とレベル差が開いたら大変でござるよ。」

オタク部の活動は、アニメ、同人研究会と称してはいるが、ゲーム、ネット、およそインドアな趣味といえるものは何でも嗜む。
というか、活動などほぼ個人が趣味でやってるだけなのだ。

もちろん、お気づきだろうが彼らは女子とはまったくといっていいほど無縁である。



ガラリ


引き戸が空いた。
今度は一人の長身で細身の男子が入ってきた。前髪が長めで目がほとんど見えていない。 身長が高いのだが、猫背で姿勢が悪い。


「やー、保健委員の事務手伝わされちゃってさ、まいったよ。」

時夫の眼鏡がキュピーンと光った。

「矢島氏、それはつまり…」

「ん?」

「保健委員の女子とふたりっきりだったてことでござるかーーー?!
女子とかいておなごでござる、女の子でござるよ!女性でござるよ!我々にだまって女子と親密になるとは言語道断でござるーーーー!!!!」

「お、おちつけって!(汗)」

秋人が時夫をなだめる。

「われわれは、約束したでござろう!
 『断女子』ダンジョシのちかいでござるよ、誰かが、ぬけがけしようものなら残された者は惨めな思いを噛みしめながら孤独にならなければならない…それだけはだめでござるよ!!」

「わかってるって!そんなんじゃないよ!他にも何人もいたし。」

「何人も!?」 

時夫の動きがピタリと止まる。

「あーー!そういう意味じゃなくてー!」

仲がいいのやら何なのやらわからない。
とにかく単体では石のように大人しいオタク達も3人よればなんとやら。
にぎやかしいものだ。


と、

時夫が興奮して立ち上がり、
そのぶつかった拍子にメイコちゃん限定フィギュアが机から宙に舞ったそのとき。


まさに、そのとき。


「あの~…。」

地獄に花というべきか、オタ部に姫というべきか 

とにかく彗星のごとくオタク男子たちの前に現れたのである。

その女子生徒は。


「ここアニメ研究会?ですか?入部したいんですけど…」


メイコちゃんフィギュアは勢いよく床に落下したがもはや誰も注目していなかった。