「……なんか、似てるな俺ら」
「そうですかね?」
そう言って笑いあう私たち。
「…少し、昔話してもいいか?」
「…?はい、ぜひ。」
そう言うと、海斗さんは優しい声で話始めた。
「俺が初めて曲を書いたのは中学生の時だった」
「凄いですね…そんな前から…」
「そうなんだよ、ピアノぽんぽん弾いてたらいつの間にかメロディーが浮かんで曲になってた、それが楽しくてそこからはもうずっと。」
昔を思い出すような顔で楽しそうに話す海斗さん。
「でも、その時応募した作曲コンクールに見事書類落ち。現実なんてそんな甘くなかったってよく思い知ったよ、本当に悔しかった。でももう一回応募する気にはならなかったんだよ、」
「なんでですか…?」
「俺かいつか歌って欲しいと思う人に出会えたら歌ってもらおうって一丁前に思ってたの。笑っちゃうでしょ?」
それからは独学で作曲を勉強したらしい。
こんな凄いことをしてるのに謙遜してる海斗さんが勿体無いと感じた。
「んで、俺は歌って欲しい人に出会えた。」
そう言って向けられた顔に少しドキッとしてしまった。
(なんだろう、ドキドキする…)
海斗さんはいつも私より先を見ていた。
未来なんてわからないけど、海斗さんなら、なんでもわかってしまうような気がした。
(一緒にいて、とっても安心できる人…)
そう思ったと同時に私は決意をした。
「…海斗さん、」
「ん?」
片手にビールを持ちながら優しい顔で私を見る。
「……海斗さんの曲、歌わせてください…」
その日に決断なんて無計画な奴だと思われただろうか。
なんて単純な奴だと笑われただろうか。
それでも私は、この人の思いを歌にしたいと思ってしまった。
少しの間の後、海斗さんは微笑んだ。
「…櫻木ならそう言うと思ってた」
「そう言ってもらえると、ちょっと気が抜けます…」
これからは海斗さんの曲と私の声で
みんなに笑顔を届けるんだ。
そう思うと不思議と力が湧いてきた。
私は未来に向かって、着実に歯車を動かしていた。

