それが、凌ちゃんと最後に話した思い出。

私は、不運にも凌ちゃんと同じ高校に合格した。

合格して、中学を卒業して。

春なんかあっという間に来て、高校に入学して。

あっという間に、私は高校1年の夏を迎えた。

「玲音ー!」

「あ、沙良〜!」

「帰りに街寄って帰らん?」

「うん!ええよ!」

高校に入って初めての夏。

沙良とは同じクラスで、2人で生徒会に入った。

「久々に生徒会休みやなー」

「ほんまやな!」

彼とは、別の校舎で、会うことすらなかなかなかった。



ガタンッゴトンッ…



私の通う高校は、地元で一番ガラが悪いと有名な高校。

ギャルやヤンキーも多いし…

その中でも、凌ちゃんは、やっぱり目立ってて…

「……」

私、何しにここに来たんやろ…?

たまにそう考える。

「あ、あれ永瀬ちゃう?」

「あ、玲音!」

降りた駅の改札口に、空くんがおった。

「…久しぶりやね?」

「元気ー?」

「うっさいんが1人おるな?」

「なんやと?ヘタレが!」

ギャーギャー騒いで空くんに突っかかる沙良。

…空くん、少し大人っぽくなったなー。



カラン…



「え?生徒会やってるん?」

「ちょっとでも内申稼がんと…」

「毎日大変やでー」

空くんはその話を聞くと、クスッと笑った。

「玲音、ほんま生真面目やなー」

「へ?」

「あの高校入ってからヤンキーになるんちゃうかって俺、心底、心配しててん」

あ…

その心配は無いですねー、はい。

「まっ、うちらは勉強出来るから進学クラスに隔離されてんねん」

そう。

沙良もこの高校では勉強出来る。

せやから何とか同じクラスになれました。

「ほな、玲音︎成績ぶっちぎりちゃう?」

「……」

「え?」

このあいだの中間テスト…総合2位。

「え?お前より頭ええ奴おるん?」

「…西畑くん」

「あ。あの塾の?」

同じ塾で、空くんと同じ高校を希望してた西畑くん。

…受験の日に熱出すなんて可哀想に。

「ガリ勉眼鏡やけどイジメとか無いん?」

「あ、それはこの子がどうにかしてるから。」

「あ…西畑くん、クラスでもちょっと浮いてるから話しかけるようにしてんねん」

勉強面での話は気が合うけど、口ベタで人見知りらしく、なかなか話さんし…。

「…まあ、西畑は置いといて」

「お前、入学してから話した?アイツと」

……凌ちゃん…

「話してないで?」

「…そっか」

話しかけてええわけないやん。

私、嫌われてるんやから…

「アイツめっちゃハデな女とつるむんやで?」

「んまあ…話しかけづらいやんなー」

隣の家の凌ちゃんの部屋は、いつも私が寝る時に明かりがつく。

避けられてるって、嫌でも分かる。

「あ!私今日用事あるんやった!」

へ?

沙良?

「ほなな?テキトーに解散しとって?」

え、ちょ。

沙良は風のように帰ってった。

「何やあれ?」

「…空くんって、凌ちゃんと会ったりする?」

「まぁ、ちょくちょく…なんで?あ、会いたいんや?凌と」

「……」

「ええんやけど、泣くんお前やで?」

…え?

空くんが自分のスマホ画面を私に向けた。

…へ?

「これ凌と、凌の彼女」

…時が止まったかのように思えた。

…あの時の、あの時の女の人や…。

チャラチャラした凌ちゃん。

それとは正反対の子やった。

黒髪の長い髪が綺麗で、凌ちゃんの隣で満面の笑みで笑ってた。

「俺と同じ高校の子」

「え!?」

頭ええんや…

めっちゃかわええ子やな…。

「…そっかー」

「…玲音に言わん方がええと思って」

「…いつから付き合ってたん?」

「中2の秋頃」

…アホらし…。

結局、手紙渡したところでフラれてたんや、私。

「…ごめんな、空くん。気遣わせて」

「俺は全然…お前が手紙渡した時期さ、」

…ん?

「凌たち、一回別れてたんやって」

え…

でもあの時…。

「俺は、チャンスやと思っとったんやけどなー…」



カランカラン…



空くんがストローでグラスの中の氷をかき混ぜる音が頭に響いた。

…私は結局凌ちゃんの特別には、なれへんのやな…。

「ありがとう送ってくれて。家遠いのに…」

「ええねん。俺が送りたかったんやから!」

「空くん、高校入って何回告白された?」

「8回くらいかなー」

うわ!!

ほんまモテるんやなぁ…

そりゃそうかー、空くんやし。

「彼女ってなんか邪魔くさいやん?」

「…そんな事ないってー!」

どことなく冷めてるなー、この人。

「彼女やったら、玲音みたいに話が合う子がええなぁー!」

へ?

私って空くんと話合うっけ?

あ、合うかー。

「頭が良くて、おもろい子」

「真逆やんそれー」

「あー後、一緒におって楽しい子?」

案外理想高いんやな。

そんな子たくさんおりそう。

「ま、結局好きになったらそんなん関係無いんやけどなー」