「おん…れおん、玲音?」

「…あ、空くん」

塾の自習室で空くんに起こされた。

…あれ。

私寝てたん…

「余裕やなーほんま」

私の席の正面に座り、参考書やノートを開いた。

「…勢いってあかんなぁ…」

「ん?」

参考書を見ながら私の話を聞いていた。

「…何でもないよ」

「凌と過ごさへんの?」

「あ、そっか今日クリスマスかー」

受験シーズンは、どのイベントも薄っぺらいなあ…

「家帰ったらケーキあるし…」

「何かテンション低いな?」

「…そうかな?」

私が凌ちゃんを思ってる時、凌ちゃんは誰を想ってんねやろか?

「ほな、俺からのクリスマスプレゼント」

「え?」



ポトンッ



私のノートに一つの御守りを置いた。

「…合格祈願?」

「まあ、落ちることないんやろけどな?」

「まぁね?でも、ありがとう」

空くんは、いつでも優しかった。




「あ、雪だぁー」

「ほんまやな」

雪なんて久々やなぁ…

しかもクリスマスなんて。

「…さむっ」

「寒いん苦手やっけ?」

「空くん、よう覚えてるやーん」

「そら去年、あんだけカイロ携帯してたら、嫌でも忘れられへんやろー?」



スルッ…



え?

「貸してくれるん?」

空くんがマフラーを私の首に巻いた。

「風邪引かれたら、困るしな」

「あ、ありがとー!」

こんなこと自然に出来るからモテるんやろなー…

赤チェックの空くんのマフラー。

微かに香る柔軟剤の香り。

「空くんってさ、なんで彼女出来へんの?」

「…さぁな?」

世の中ってほんま不思議。



カツカツ…



…あっ。

帰りにノート買って帰らな。



カツカツ…



クリスマス一色の街の本屋。

ノートを二冊買って外に出た。

「…ええなぁ…」

街はカップルだらけ。

私は…

ぼっちクリスマス。

「…はよ帰ろっ…」

顔を上げた時、カップルが目に入った。

彼女の方が腕組んで、彼氏が彼女を抱きしめてて…

…ええなぁ、あーいうん…。

彼氏のほうは背を向けてて顔が見えへんかった。

けど、彼女はめっちゃ可愛くて…

「ほな、またね?凌!」

ーー……へ…。

りょ、う…。



カツッ



「…わっ!いつからおったん?」

私に気がつき、凌ちゃんが驚いてた。

「…あ、あははっ。覗き見するつもりなかったんやけど…ね」



…ガシャンッ



家の門を開け、自分の家に入ろうとした。

「待てって、おいっ」



パシッ



凌ちゃんに腕を掴まれた。

「…か、のじょおったんやな…?」

「……」

何で黙り込むん?

違うって、一言ぐらい言ってくれてもええやん。

「…凌ちゃん、地味に優しいから私に気遣ってたんやんな?」

「ちがっ…」

渡さんかったらよかった。

「まあ、あれ罰ゲームなんやけどな?」

「…は?」

「友達との賭けで負けたから!私が凌ちゃんに本気なわけないやーん…」

大丈夫。

今なら、まだ間に合う。

恋人になりたいなんて、そんな贅沢なこと望んだらあかん。

凌ちゃんの横で、ただ、笑えたらそれでよかっ…

「…っざけんな!!」

「え…?」



ビリッビリッ…



封筒ごと、ビリビリに破られた。

「…ほら、これで気が済んだか?」

アスファルトに、破られた紙の紙片が散った。

「もう俺に話しかけんなや」



…ガシャンッ



凌ちゃんは、自分の家に帰った。



…ポタッ…



「うっ…っうわぁーんっ…」

散らばった手紙の紙片を、泣きながら拾った。

雪のせい?

涙のせい?

紙が滲んで、何とも惨めな気持ちになった。

…最低やん、ほんま…

凌ちゃんの気持ち、弄ぶなんて…。

「うっ…うあぁ…っ」

初めての恋は、自分から終止符を打ってしまった。