「え、あんたさ本気?」

「本気やって」

親友と図書室で受験勉強の毎日。

「偏差値20も落とすん!?︎」

「だって凌ちゃんも沙羅もおるやん」

私の目指すとこは、地元でも悪い噂しかない私立の高校。

「勿体無いやん!」

「まあ…親に反対されたけど」

凌ちゃんと関わらん方がええって何回言われたんやろ。

「私もこんなんやけど、アイツはほんまやばいやんなー…」

学校に来たら先生と喧嘩。

校舎裏でタバコは当たり前。

ガラの悪い連中と一緒におる。

「だって、凌ちゃんと離れるなんて考えられへん」

「それやったら告白せな!」

「無理無理。絶対無理!!」

私なんかに告られて嬉しいわけない。

まず無理無理。

最近なんかウザがられてるしー。

「でもいつか誰かのもんになるかもしれへんのやで?」

…それは嫌やな。

「ラブレターとかは?」

「ない!あ、この参考書使ってもええから」

「もー…あ、平野!」

え!?

沙羅が窓の外の校門を見て言うた。

「りょーちゃん!」

校門には、帰る途中の凌ちゃんがおった。

「ほな私帰るわ!」



タッタッ…



「しょーちゃんー!」

「わ、来た。なんやねん、うっとうしーねん」

「私な、テストめっちゃ良かったんやて!」

「ほー。なら空と同じとこ行ったら?」

またそういうこと言う。

空くんは同じクラスの頭がいい男子。

何故か凌ちゃんと気が合う。

「凌ちゃんは私がおらんと寂しいやろ?」

「別に。お前鬱陶しいから嬉しいねん」

…凌ちゃんのアホ。

「つーか何。お前俺と同じとことかストーカーかよ」

「だって凌ちゃんのそばにおりたいんやもん!」

「…キモい」

そう言うてスタスタ歩き始めた。

冷たいなー。

「あ、玲音やん」

「空くん!」



ピクッ…



「この間借りてた赤本」

「あ、どうも」

空くんは府内で一番の名門校に行く。

んー…

天は二物を与えたな。

「玲音︎、今ならまだ進路変更出来るけど?」

「え?変えんで?」

「でも勿体無いやん」

「んーまぁ…わっ!?」

「ほら、ほんまに置いてくで?」

凌ちゃんにクシャッと頭を撫でられた。

「えっ、ちょっ待ってや!あ、バイバイ空くん!」



タッタッ…



「…ゾッコンやなぁー」

たまに他の男子と話してると、こうやって邪魔してくる。

別に今の私は、凌ちゃんとの関係に満足やった。

「……」

「お前、何で俺に執着するん?」

…聞いちゃう、それ?

凌ちゃんのこと好きやから…

…なんて言えんな。全く。

「凌ちゃん、目離したら何するか分からんやん?」

「…あっそ」

変わらへん、ずっとそう思っとった。

凌ちゃんは、よう泣いてた。

その度に私が励まして、一緒に笑って。

…いつからやっけ?

凌ちゃんが目立つような人たちとつるむようになって。

中1の夏に、安全ピンで耳に穴開けてピアスして。

…私が追いかけるようになったんやんな。

茶髪…似合ってる。

ピアスも…1つ、2つ、3つ…全部で7個か。

相当チャラくなったもんやなー。



カキカキ…



ボールペンで、凌ちゃんを描いた。

「…何やってるんやろ、私」



コンコンッ



「玲音ー。牛乳買ってきて?」

「えー?」

受験生だで…

「ママ、私受験生やで?」

「パパがお友達連れてきてて手が離せないんやってー。ママのお願い聞いてくれへん?」

…なんて両親。

娘が受験生やのに、もう。



ピロンピロン♪



「ありがとうございましたー!」



カサッ



牛乳と…いちごみるく。

「おいしいー!」

「あれ、山下?」

…わっ。

凌ちゃんとつるんでる他校の人ら…。

「何、一人?凌は?」

「あ…いつも一緒ってわけじゃ…」

「ほー。なら俺らと遊ばん?」

「女子一人来れんなったからさ!」

「え、あ、いや!大丈夫です!」

はよ帰らな…

「ほーら!」



グイッ



「え、あ…」

チャラチャラしてる。

凌ちゃんみたいな人たち。

でも全然ちゃう。

「酒買って行く?」

「さんせー!!」

男の人に肩を組まれた。

「あ、あの…やっぱ私…」



パシッ



「…うわっ!?…あ!りょ…ちゃん」

「お前、何してるん?」

凌ちゃん…。

「あ、いやー、今から飲もう思ってな?」

「…こいつ酒飲めねえから」

「え、あ。そうなん?」

「ヤバいって…」



グイッ



「わっ…」

「帰るで?」

「…う、ん」



タッタッ…



「あーあ。怒らしたわー…」

「今度ボコられるでー…」



タッタッ…



「…凌ちゃん?」

「……」

めっちゃ怒ってる。

強く手を握られてる。

「…あのさ、」

凌ちゃんの家の前で立ち止まった。

「夜遅くに出かけんなよ」

「…それって、心配してくれてるん?」

「…別に。ほな、また明日な!」

「りょーちゃん!」

私が名前を呼ぶと、凌ちゃんは立ち止まった。

「……何?」

「凌ちゃんにとって、私って目障りなんかな?」

初めてこんなこと聞いた。

「あ?目障りやったら、話しかけたりせえへんやろ?あほっ」

背を向けたまま私にそう言うた。

「は?アホって言うた方がアホやしー!笑」

「俺アホちゃうから」

「え?誰が?」

「お前なぁー」

こうやって笑い合うのが、私の幸せやった。

笑顔な凌ちゃんが隣におったら、それでよかった。