土曜と日曜。

どちらとも私は塾通い。

「……」



カリカリ…



ただひたすら、自習室で問題を解く。

10時から18時までの8時間。

「うわ、それまだ習ってないやつ」



ビクッ



「え?空くんの高校も?」

「その公式、本来は高校で学ばんやつやから」

「あっ、私、空くんに貰ったやつ使ってるから…」

「えっ?そんな進んだん?笑」

中学ん時のガリ勉ツートップ。

勉強…好きやし、それを空くんも分かってくれて一緒に勉強すると楽しいし…。

「なあ、今日帰り暇?」

「んー…暇。」

「街の方行こうや」

街?

「ええけど…」

また何で街に…

空くんなりの優しさ。

それともまた何か違う感情があったんかな?

私はその日、また後悔をすることになる。



ガタンゴトンッ…



18時過ぎでもまだ明るい街。

同い年の高校生やらが集まってた。

「しょー」

…へ…

空くんに連れてこられたゲーセン。

そこには、凌ちゃんとその友達がおった。

「…」

「あれ確か…」

「凌の幼馴染の子やんな?」

…何で空くん、こんな所に…?

「大丈夫、そばにおるから」

…?

凌ちゃんは、そのグループの中でも一番目立ってた。

「何だよ?空、お勉強終わったん?」

「誰かさんと違ってテスト白紙で出したりせんから」

…喧嘩してるん、この2人?

私はそそくさと空くんの後ろに隠れた。

「…ここお子ちゃまが来るとこちゃうで」

「……」

目が合っても、私の知らん凌ちゃんやった。



ワーワー…



ゲーセンの中で盛り上がってる凌ちゃん達。

「飲み物買ってくるけど何がええ?」

「コーラ…。お金…」

「ええよ、そんぐらい、笑」



タッ…



…空くんってほんま彼女作らんのかな。

「なあ!」

「うわっ!」

隣にいきなり座ってきた。

だ、誰?

茶髪のスタイルのええ男やった。

「自分、凌の幼馴染の玲音︎やんな?」

急に呼び捨て。

…凌ちゃんのツレ?

「いや一瞬見たら、ほんま可愛いな」

「…誰?」

「ん?あぁ、俺康二。同じ高校やねんけどな〜?」

え。

…知らん。

…あ。

でも名前は…

「…ジーコ?」

「んもぅー自分よう分かってるやん。凌から聞いたん??」

…中学の時、たまにジーコジーコ言うてたっけ。

「凌と空、今喧嘩中やから」

「え。やっぱそうなん?」

「凌もフラフラしすぎなんやてー…」

…フラフラ?

ダンスゲーで盛り上がってる凌ちゃん達のほうを見て言うた。

「凌、去年のクリスマス前に一回彼女と別れてるんやで」

…うん。

「別れた理由が、凌に他に好きな子がおるんちゃうかって。彼女が結構束縛気質やったから」

え…

「…そ、うやったんや…」

「まっ。その彼女が、諦めきれんくてより戻したらしいんやけどな」

…彼女以外に、凌ちゃんの好きな人…?

「…あれ。ジーコやん」

「おっす空!」

「何話してたん、2人で」

「な、い、しょ!な?」

「う、うん」

「りょー俺も混ぜてやー」

「えー?ジーコ上手いやんこれ」



ワーワー…



きっと、私が踏み込んだらあかん世界。

凌ちゃんや康二君、空くんは行き来できるのに私はその世界に入れん。

「……」

「玲音?大丈夫?」

「う、うん。平気…」



カツッ…



その時、空くんが買ってきてくれたコーラを思いっきり振った。

「...玲音?」

「…はー…行ってくる」



カツカツ…



私は、凌ちゃん達の元へ駆け寄った。

「おい、平野凌」

強気な口調で、名前を呼んだ。

「…あぁ?」



ブシュッ



「は!?なに!?ケホッ…」

コーラのふたを開ける瞬間、凌ちゃんの顔の近くに寄せたから、凌ちゃんの顔にかかった。

「…言いたいことある。あんたに」

もちろん周りのツレはギョッとしてた。

あの凌が…みたいな。

「…こっち来い」



グイッ



私の手を掴み、トイレの前に連れていった。

「…何だよ?」

「…あ、あの…」

でも、いざ目の前にしたら何を言いたかったんか言葉が出てこん。

「……」

「…あの、手紙…」

「…手紙?」

ずっと伝えられんかったことを伝えようとした。

「あれほんまは、」

「凌ちゃーん!」

…え?

その声の主は、初めて聞く声やったけど誰かすぐに分かった。

「え、ありさ?」

「康二から聞いて飛んできた!」

「…クソコージ野郎!」

今言おうとしたのに…

「…あ!もしかして幼馴染の?」

「……」

「え、あ…初めまして…」

紫耀ちゃんの彼女。

大きな瞳に、綺麗な黒髪。

透き通るような透明感。

…あの写メの子や…。

「…もしかして話してた?」

「え?あ、全然たいしたことちゃいますよ!」

…あ。

「…ありさ、行くぞ」



カツカツ…



…また。

またやってしまった。

「…はぁ…」

「…アホ」

…ほんま何やってんねん。

てか、彼女さん綺麗すぎやろ。

…凌ちゃんって呼び方も、私だけちゃうかったんや…。

何か色々ショックすぎて泣けるわ。

「…やめた」

「…ん?」

「頭撫でたかったけど、やめた」

はい?

「お前、凌のことしか頭んないやん」

「…え?」

何で空くんが私の頭撫でたがるん??

「え?あ、そうだよな。…まあ特に深い意味は無いねんけど」

あ!

「空くんもしかして…?」

「え?」

「私に気遣ってるなら、全然そういうんええから」

「……」

「もうちょっと頑張ってみるわ、私!」

片思いの時間は、無制限やのに何で焦るんやろ?

何で欲が出てしまうん?

「はぁ…まぁ、がんばれ、笑」