ヒロインになれない!

途中で兄が家に電話を入れて、3人で花火に行くことを母に伝えてくれた。
道はかなりこんでいたが、暗くなる前に無事到着できた。
浜辺ではステージが組まれ、屋台が並び、とても賑やかだった。

兄は恭兄さまに座席券とサンドイッチと車の鍵を渡した。
「俺、約束があるんで、行きますね。帰り、車、使って下さい。あ、でも、道路めっちゃ渋滞するし、花火の後でどっかでご飯食べはって、ゆっくりしはってから帰らはったほうがいいですよ?なんなら、ホテル取って、朝、帰らはっても……」

「お兄ちゃん、どっか泊まるん!?え?もしかして、あの辺から見るん?」
私は、対岸を指差した。
外資系一流ホテルがあったはず。

「ああ。エアコンの効いた部屋でゆっくり見せてもらうわ。」
……せっかく観覧席の券あるのに、わざわざ遠くのホテルから見るんや。
もったいない気もするけど、メインが花火じゃなくて、ホテルでエッチってことなのかな。

「じゃ、恭匡さん、由未をよろしくお願いします。由未、赤くなってるで。やらしぃ!」
「お兄ちゃん!」

兄は私をからかって笑いながら行ってしまった。
後に残された私は、恭兄さまに赤面を見られたくなくてうつむいてた。

しばらくして、花火の打ち上げがはじまった。
大きな音の後、光がほぼ真上で花開き、降ってくるよう。

周囲のカップルが肩を寄せ合い、仲睦まじいのが、うらやましい。
やばい。
私、完全に意識してる。
すごく楽しみやった花火より、恭兄さまがどんな顔していてはるのか……気になってしょうがない。

ドドーン!と一際大きな音のあと、夜空いっぱいに広がった大玉に、恭兄さまが感嘆の声を漏らした。

ちらっと、恭兄さまを盗み見る。

目をキラキラさせて見上げてはったけど、私の視線に気づいて、にっこり微笑んでくださった。
きゅんっ!と、心臓が甘く疼く。

慌てて顔を背けたところ、斜め前のカップルがキスしてるのを凝視することになってしまった。

いいな~、と見とれて……え?あれ?
見覚えのある横顔に、そのまま目が離せなくなる。

こんなところでこんな再会。
私は苦笑するしかなかった。
しかも、向こうも私に気づいてしまった。
お互いに言葉が出なかった。

……和也先輩だった。

和也先輩が私を見て、硬直してる。

たった今までキスしてた相手の動揺に気づいたらしく、女性がつられてこっちを見た。
……可愛らしい人。
チア部の人って言ってたから、もっと派手な人かと思ってたな。

こういうときでも、目が合うと、つい、へらっと笑いかけてしまう悲しい京都人の性(さが)。

慌てて 和也先輩が彼女の腕を引き、前を向かせた。
……先輩……逆に怪しいですから……。

しょうがないなあ、と苦笑してしまった。