ヒロインになれない!

「宮家からの降嫁もあるようなお公家さんの家やしなあ。主人の意向に下のもんが振り回されるのを避けるのと、主張することは品(ひん)が悪いって感覚でしつけられはってんろ。」

なんか、誰の話をしてるの?って気分。
私の知る恭兄さまって、けっこうワガママやと思うねんけど。
私は、うーんと唸って考えこむ。

兄は、私の頭にぽんぽんっと触れて言った。
「ま、由未にしかできひんこっちゃ、せいぜい恭匡さんを甘やかしてあげよし。……明日、俺も挨拶に行こうと思ってたし、一緒に来るか?」

え!いいの!?
「行く!連れてって!」

兄は苦笑した。
「……うれしそうな顔してからに。お兄ちゃん、淋しいわ。」

もう!


翌日のお昼前に、兄とともに恭兄さまを訪ねた。
「やあ、義人くん。久しぶり。」
恭兄さまがにこやかに、兄を迎える。

「ご無沙汰してました、恭匡さん。妹がよくしていただいてるみたいで、ありがとうございます。」

私も兄の後ろから、ひょこっと顔を出す。
「今日も来ちゃいました。……今朝はちゃんとご飯食べはりました?」

恭兄さまは、苦笑して曖昧にごまかされた。
……食べてへんにゃ……。

「まあ、どうぞ。」

応接間に通されて、しばらく歓談してると、臈長けた女性がお茶を運んでくださった。
……美味しいお茶だった。

「一保堂?柳桜園?」
兄がそのかたに尋ねると、彼女はふふっと笑って

「これは、上林です。天花寺(てんげいじ)さまが、どちらのお茶でしたら気に入っていただけますか、まだわかりませんので、試行錯誤してるところですの。」
と答えてから、恭兄さまに向かって言った。
「お昼はお客様もいらしてますし、お出かけされてはいかがですか?そのほうがお好きなものを召し上がられますでしょ?」
彼女の言葉に棘を感じて、私は思わず顔を上げた。

兄の手が、私を窘める。

恭兄さまは、微笑を貼り付けて仰った。
「お心遣いありがとうございます。今夜も約束がありますので、今日はこれで。明日またよろしくお願いします。」

……さむっ!
言葉も表情も丁寧なのに、全く心がこもっていなかった。

しばらくして、お手伝いの女性が帰られたのを待って、兄がため息をついた。
「……どこぞの割烹の女将かな?……店が客を選ぶタイプの。」

「そんなところだろうね。」
恭兄さまは、興味無さそうにそう返事した。

クールなんだろけど、とても淋しく感じてしまった。
あかん、とても見てられへん。

「私、何か作ってくる。」
私はお台所へ向かった。