ヒロインになれない!

兄は、前方を見つめながら言った。
「前は自己完結してたけど、今は離れてることが不安でしょうがないように見えるで。共依存してるんやな。」

共依存……。
そうなのかな。

「不安っていうか、心配。書いてはる時の集中力すごすぎて……。」
私の言葉を聞いて、兄が笑いをかみ殺した。

「……初恋はもう完全に吹っ切れてるんや。ふ~ん。由未は恭匡さんと一緒にいたいんや。」
兄に指摘された通りだった。

「お兄ちゃん、イケズ。」

そう言って睨むと、兄は笑顔で私の頭をわしわしっと掴んだ。
「やっと俺の顔見たか!ほんまにもう!そんなに恭匡さんが好きか!?」

私はびっくりして慌てて否定した。
「違うって!心配なだけ!好きとか、そんなんじゃないから!」

おやおや、と、兄は大仰に肩をすくめた。
「素直ちゃうなあ。恭匡さん、かわいそうに。あんまり意地張り過ぎんなよ。」

「……お兄ちゃん、恭兄さまに好意的よね。何で?」
「ん~、そやな~。初対面の頃は何考えてはるかわからんかったけど、由未に優しくしてくれてはったん見てたら情の深い人やなあ、って。あと、お父さんの言いなりにならへんところ?」
「どういう意味?」

兄は、ん~っと、考えてから用心深く口を開いた。
「お父さん、ほんまはな~、恭匡さんにも会社継がせたいねん。」

は!?

「だって、お兄ちゃんは!?」

兄は、こともなげに言った。
「どっちでもええんちゃう?お父さん的には。でも俺はお父さんに逆らえへんけど、恭匡さんは絶対に父さんの思惑からすり抜けはるねん。それがお父さんには、苦々しくも頼もしくもあるんやろ。」

私は息を飲んだ。
父と恭兄さまの間には、いったいどんな確執があるっていうの?

「……そういえば、今、恭兄さまが役員をしてる会社て……もしかして?お父さんの?」
何となく頭にひっかかるものがあったので、口に出してみた。

すると兄の表情が変わった。
「なんや。知ってたんか。ほな余計なこと言うてしもたかな。」

「知らん知らん。知らんから、教えて。」
兄の腕を揺さぶると、

「危ない危ない!運転中にそれはあかんて。」
と、私の手をぽんぽんと、優しく叩いて諫めた。

「教えてくれたら、やめる。」
「……まぁええか。恭匡さんが就職するはずやった会社をお父さんが買収しはってな、そこと関連会社の役員に勝手にしてしまわはってんわ。」

なに、それ……。

「強引やろ?お父さんは恭匡さんに苦労させたくなかっただけねんけどな。」
「……若者の労働意欲を削いでどうすんのよ。」
憤慨する私に、兄もうんうんと頷いた。