ヒロインになれない!

「たぬき」は、地方によって内容が違うらしい。
けど、京都のたぬきは、刻み揚げ入あんかけうどん。

最初のうちは関東のお揚げさんを使ってみたけど、最近はわざわざ恭兄さまがデパ地下で京都のお揚げさんを買ってくれている。

お豆腐・お揚げさん・湯葉は、どうしても京都のものにこだわってはるらしい。
まあ確かに私も、関東で別物のような味と食感に驚くと同時に、恭兄さまが外食したがらない一因を理解した気がしたけど。

翌朝には、恭兄さまの熱は下がった。
でも私のかゆみは、一週間以上続いた。
その都度、恭兄さまが喜々としてお薬を塗ってくれた。
……めんどくさいし気恥ずかしいけれど、甘やかされるのは確かに心地よかった。

次第に恭兄さまのペースに、流されていく。

2人の、心の距離が縮まっていく。



夏休み。
本当に恭兄さまは、私と一緒に京都に来た!
……実に10年ぶりらしい。

天神さんの西のお家は、東京のお家同様、最初から恭兄さまの名義で建てられたものだ。
「僕としては、それがまず、気に入らなかったんだよね。父が健在なのに、って。実の父じゃなくて、由未ちゃんのお父さんに対して反抗期だったんだろうね。」
京都に向かう新幹線の中で、恭兄さまは、ぽつりぽつりと述懐した。

「じゃ、もしかして、北海道の進学校の寮に入らはったのも?」
はじめて聞く恭兄さまの胸の内にに、いくつかの疑問がとけていく。

「うん。僕名義にされて、逆にとても住めないと思って、逃げた。」
恭兄さまはため息をついて、続ける。
「でも、今は後悔してるよ。父とずっと離れて暮らしてたろ?ちゃんと側にいたら、父はもっと健康に長生きできたのかな、って。」

私は、少し不安になった。
「うちの父に対して、今も……?」

恭兄さまは、慌てて否定した。
「いや。それはないよ。むしろ今は感謝してるよ。当時の僕がひねくれてただけ。」

本当に?
心配で、恭兄さまをじっと見た。

「一言で言い表せないぐらい、複雑な感情を抱いてたんだよ、僕も、たぶん由未ちゃんのお父さんも。でも、計算とか建前以上に、竹原……由未ちゃんのお父さんが僕に目をかけてくれたのは事実だし、僕も彼を敬愛してる。それじゃ、ダメかな?」

恭兄さまの言葉は、わかるようで、やっぱり、まだ理解しきれなかった。

それに、私に見せる笑顔はいつも通り優しいけれど、京都に近づくにつれて次第にクールな外向きの仮面をかぶっていかはるような気がする。

本当に、京都に連れてきてしまってよかったんだろか。