ヒロインになれない!

「恭兄さま?お熱、測りましょうか。」
「ああ。お帰り。由未ちゃんは、体、つらくないかい?」

恭兄さまが、半身を起こされると、パジャマの前がはだけて、白い肌が露わになった。
スポーツとか一切してはらへん、男性としてはどうなんだ?って体なんだけど、やっぱり私はドキドキしてしまった。

やばい。
ほんまに、恭兄さまに翻弄されてる。

「授業中、眠かったけど、風邪は引いてないみたいです……お陰様で……。」
「そう、よかった。」
そう言いながら、恭兄さまが右手を伸ばして、私の頬に触れた。

鼓動が跳ね上がる。

私は、何とかごまかそうと、体温計を差し出した。
恭兄さまはおとなしく受け取ると、体温計を脇に挟んだ。

「さっき、笑ってはったけど……楽しい夢でも見てらしたんですか?」
「夢じゃないけど……かゆがって泣いてた由未ちゃんを思い出しちゃって。……かわいかったよ。」

うっ!
確かに泣いた、泣いたけど……。

「まだ腫れてるし、当分しつこく、かゆそうですよ。」
恥ずかしくてそっぽを向いてそう言った。

「じゃ、その都度また僕がお薬を塗ってあげようね。横着して掻かずに、ちゃんと言うんだよ。」

……甘い……今まで以上に、恭兄さまの頭に花が咲いていて、恭兄さまの周囲がピンク色に見える……気がする。
遠慮しない、ってこういうことなのか。

失恋したばかりなのに、私は自分がすぐに陥落しそうなことに気づいていた。
……失恋したばかりだから、なのかな。
少しの愛情にも飢(かつ)えている、今だから?

自分の変化に戸惑って、私は、じりじりと後退した。
体温計が音をたてる。
恭兄さまは、目盛りを読んで苦笑した。
「37度8分。」

……高い。
「あきませんね、ちゃんとおとなしく寝ててくださいね。お腹はすいてはりますか?」

「んー。何か作ってくれるなら、食べたい。」
「おうどんの準備してきましたけど。」
「市販のおだしなら、いらない。」

出た!わがまま!

「ちゃんと、おだしから取りますよ。お揚げさんは、甘いほうがいいですか?……あ、それか、刻んで、おだしを『あん』にして『たぬき』にしましょうか?生姜いっぱい入れて。」

恭兄さまは、ぱふっと音がたつぐらい勢いよく仰向けに寝て、お布団を目元まで引き上げて言った。
「たぬき♪」

……喜んでるのを隠したんでしょうか?それとも病人アピールでしょうか?

いずれにしても、目がキラキラして、声が弾んで上(うわ)ずってる。
子供か。

「……じゃ、ゆっくり休んでてくださいね。」
私はそう言い置いて、お台所に入った。