ヒロインになれない!

家に帰り着くと、すぐにお風呂を沸かして、熱めのお湯に恭(きょう)兄さまを入れた。

生姜を擦り、レモンを絞り、蜂蜜をたっぷり入れてお湯を注ぐ。
お風呂で温まった恭兄さまに、自作の生姜湯を飲ませてお布団で寝てもらった。

私は、1時間だけ仮眠して学校へ行った。
……恭兄さまの枕元に、ポカリスエットとおにぎりを置いて。

「由未ちゃん、顔、かぶれてる?」
早速、知織ちゃんに指摘されてしまった。

夕べから明け方にかけての顛末を話すと、知織ちゃんはお腹を抱えて笑った。
「やっぱり、恭匡(やすまさ)さん、いいわ~!」

いいか?

知織ちゃんは、言いにくそうに、それでも言った!
「こうなったから言っちゃうけど、由未ちゃんとサッカー少年はやっぱり無理があったと思う。価値観とか全然違うやん?たぶん付き合っても、そのうちかみ合わなくなって、結局別れるんじゃないかな。」

「……ハッキリ言うてくれたね。」
私は苦笑する。
たぶん図星だろうけど、まだ、認めたくなかった。

神戸のあおいちゃんにはメールで報告した。

〈和也先輩に完全失恋!〉と。

お昼休みに、早速、あおいちゃんから電話がかかってきた。
好きになった人の悪口は言いたくないので、かなりオブラートに包んで話したけれど、あおいちゃんには通用しなかった。

あおいちゃんは、『くそ猿がぁっ!』と吠えた後、聞くに堪えない文句を並べ連ねて、少し落ち着いたらしく、最後にまことしやかに言った。

『まあでも、妊娠させられたんが由未ちゃんじゃなくてよかったよ。まだヤッとらんねんろ?綺麗な体のまま、次の恋愛に行けよーね。猿はもう忘れーな。』

……ほんま、男前だわ、あおいちゃん。

放課後、今日は図書館でのお勉強はやめて、すぐに帰宅した。
私自身が眠いのもあるけど、やっぱり、恭兄さまが心配だった。
容体がわからないので、ポカリの粉末と、おうどんを買って帰宅した。

恭兄さまは、まだ眠ってらした。
……はじめて、寝てはるところを見たけど……眠ってる姿もお行儀のいい、恭兄さま。
掛け布団の端まで乱れてないし。

整った品のいいお顔に、うっすらと見慣れないお髭。
毎朝、綺麗にされてからしかお会いしてないから、すごく不思議な気がした。

恭兄さま、男の人なんだなあ、って。

何となくドキドキしてきたので、慌てて、空になったおにぎりのお皿を取ろうと手を伸ばす。
その気配で、恭兄さまが目を開けてしまった。

「あ……ごめんなさい、起こしちゃった。」
「……ふふっ……」

笑った!
まだ熱に浮かされてるのか?