ヒロインになれない!

え?
恭兄さま、今、私にデコピンしました?

「ドラマチックである必要なんて、ないと思うけど。」

何事もなかったように、恭兄さまがそう言うから、私はデコピンは気のせいかと無理やり納得した。
でも、それに続いた恭兄さまの言葉は、とうてい納得できるものではなかった。

「価値観はそれぞれだから押し付けるつもりはないけどね、少なくとも、僕にとって、由未ちゃんはかけがえのないヒロインだよ。」

「はあ?」

闇の中に沈黙が広がる。
コホン、と、恭兄さまがひとつ咳払いをした。

「由未ちゃんの初恋は中3から高3の今日終わったんだよね?……僕の初恋は、中1から大学を出た今も継続中、ってこと。……気づいてなかった?」

私は、ただただ絶句した。
この人、何言ってるんだ?
はじめて会った時って、私、まだ子供やったやん。
ロリコン!?

「……やっぱり気づいてなかったんだ。まあ、僕自身、自覚したのは後になってからだけど。」

何て言えばいいのか、言葉が見つからない。
あ、でも、じゃあ!

「さっき、デコピンした?」

「……した。今更、身分なんて言われて、カチンときた。」
拗ねてるような笑いを含んでるような、そんな声だった。

今更って言われても……。
私はまだ混乱していた。

ふふふ……と、柔らかく笑ってから恭兄さまが言った。
「今、僕のことで頭いっぱいになってる?」

「はあ。まあ。……驚いて、ます。」

「じゃ、告白した甲斐あったね。これからも、僕の言動に振り回されて、嫌なことは忘れちゃうといいよ。」

……さりげなく、すごいこと、言うてはりますよね?
言葉も声も優しいけど、かなり「オレサマ」なこと。

「……えーと……これから、私、恭兄さまにどう接したらいいか、わからないんですけど。」
間抜けなことを言ってる自覚はあったけど、本音だ。

途方に暮れる私の頭を、恭兄さまは先ほどと同じように自分の肩に落とさせた。
「何も意識しなくていいよ。由未ちゃんは今まで通り。でも僕はもう遠慮しないけど。ね。」

……今まで、何をどう遠慮してたっていうんですか?
私は、ちょっとドキドキしていた。

「もちろん無理強いはしない。寝込みも襲わない(笑)。安心して暮らしてね。」
「……。」

見透かされたようで、私は恥ずかしくなって何も言えなかった。

「由未ちゃんが、好きだよ。とても。」

恭兄さまの言葉は、渇いた大地に水が染み込むように、ひび割れた私の心にすーっと入り込んできた。

うっ……。

やっと涙がこぼれ落ちた。