ヒロインになれない!

「ここ、崩れてる。危ないな。はい。」
はい、って……恭兄さまが当然のように、私の両手を取って支えてくれるように階段を降りる。

階段を降りきっても、片手はつないだまま、恭兄さまは川の上流へと歩いた。
暗くて足元もおぼつかないけれど、月の光が川面に反射していたし、何よりも恭兄さまが手を引いてくれるので安心できた。

しばらく歩いてから、暗闇にぼんやり白い石のベンチに恭兄さまと並んで座った。
だいぶ目が慣れてきてたけど、それでも本当に暗くて、川のせせらぎだけが五感を刺激していた。

「すごいところですね。こんなところあるんや。」
「……本当は夜は危ないから来ちゃいけないところだろうけどね。」

暗闇の中に自分の声が響くのは怖いのに、恭兄さまの声には安心感を覚えた。

「え~と、ご心配かけました?よね?たぶん、聞いてはりますよね?」
恭兄さまがどこまでご存じかわからないけれど、推し量るのもめんどくさいので、自分から切り出してみた。

「ん。ずっと心配は、してる。今も。でも、何も聞いてないよ。」
「え?そうなんですか?てっきり知織ちゃんから……」
「まあ、聞かなくても、だいたいわかるけどね。」
ふうっと、ため息が聞こえた。

そうやろうねえ。
私も、同じように、ため息をついてみる。

「この歳で、初恋とか言うたら、笑います?」
「……いや。」
「中3から3年間。やっと今日、初恋が終わりました。」
「……うん。」
「ずっとね、脈、なかったんです。先輩は私の友達のことが好きで。私は、まったく眼中になかったのに……馬鹿な期待をして、舞い上がってました。」

また笑いがこみあげてきた。

「今度こそヒロインになれると思ったのにな。」

「……由未ちゃんだって、由未ちゃん自身と由未ちゃんを愛してる人達にとっては、ちゃんと、ヒロインだと思うけど。……って、これじゃ、月並み過ぎる?」
恭兄さまが遠慮がちにそう言ってくれた。

私は恭兄さまの肩に頭を預けた。
「月並みやけど、うれしいです。ありがとうございます。でもね、何てゆーか、他の周りの女の子とはレベルが違うんです。彼女たちのドラマチックな恋愛や生き方こそヒロインで、私はずっと脇役で。」

ふわりと優しいタッチで、私の髪が撫でられる。
恭兄さまが、そーっとそーっと私に触れてらっしゃる様子に、私の心が和んだ。

「他人と比較してもしょうがないってわかってるんですけどね……」

「まあ、義人くんはアレだし、他のお友達もやたら華やかそうだよね、確かに。」
「お友達だけじゃないですよ。百合子姫とか、恭兄さまとだって、身分が全然違うし。いたっ!」

額に小さな痛みと衝撃を感じて、驚いて私は頭を起こした。