ヒロインになれない!

私はそのまま、目を閉じた。

くちなしの香りがする。
むわっとむせかえるような香り。

紫陽花の中に入ったのに……隣にくちなしが植わってるのかな。
……なんか……嫌いになりそうだな、この香りが。

紫陽花も、くちなしも、嫌い。

和也先輩も、嫌い。

嫌い。
嫌い。
嫌い。

……この時、私はけっこうな長時間、紫陽花の中で三角座りをしていた……知らぬ間に、御用カメラマンか写真部かに撮影されてたらしく、卒業アルバムに掲載されていた……。

失恋の記念撮影なんか、いらんのに。



17時のチャイムを聞いて、私はようやく立ち上がった。

図書館、閉まってしまう。
慌てて紫陽花から抜け出し、階段を駆け上がる。
図書館のドアの前で、知織ちゃんが待ってくれてた。

「由未ちゃん!制服!ひどっ!」
しおりちゃんに言われて、はじめて自分の格好を見てみると、なるほど、あちこちに土がこびりついていた。
……ま、夏服に替わったばっかりでよかったよ……洗濯できるし。

「電話、どうやった?長かったけど……」
知織ちゃんが、まとめてくれた私の荷物を手渡しながら、恐る恐る尋ねた。

私は、どういう顔をすればいいのかわからなくて、とりあえず笑顔を見せた。
「初恋終了。和也先輩、チアガールを妊娠させてしもてんてー。やっぱり猿よね-。」
……言ってて情けなくなってきた。

知織ちゃんは、ぎゅっと私に抱きついてきた。
「由未ちゃん……」
ふるふると知織ちゃんは震えてた。
泣いてくれているようだった。

「知織ちゃん。ありがとう。でも、大丈夫やから。」

私は知織ちゃんの背中をさすって、あやす。
でも逆に知織ちゃんに怒られてしまった。
「もう!由未ちゃん!こんな時は泣いていいんよ!てゆーか、泣きよし!」

でも私は、微笑んでしまった。
……だって、知織ちゃんの気持ちがうれしかったから。
「ありがとう。代わりに知織ちゃんが泣いてくれたから、私、楽になったわ。」

知織ちゃんはとっても不満そうだったけれど、やはり私が心配だったらしい。
「家まで送る!」
と言い張って、ついてきてくれた。

知織ちゃんとスーパーに寄って、帰宅した。
恭兄さまは人見知りなほうだけど、いかにも礼儀正しい優等生な知織ちゃんに対して、悪い印象を抱くはずはない。
そう思って連れ帰ったけど、案の定、フレンドリーな紳士然として知織ちゃんと接してくれていた。

私は安心して、お台所で夕食の準備をした。
知織ちゃんは手伝ってくれようとしたけど、調理実習でしか包丁を握ったことがないらしいので、辞退させていただいた。

ま、当世の女子高生、普通はそんなもんだろう。