ヒロインになれない!

静かにホロホロ泣いていると、恭兄さまが綺麗なハンカチを目にあててくれた。

「ありが……と……う、うぇ~ん!」
何とも言えず心地よくて、今度は声をあげて泣いてしまった。

恭兄さまは、私の背中をさすってくれてたけれど……ん?
違和感を覚えて、顔を上げると、恭兄さまの目にも涙が光っていた。
驚いて私の涙がピタッと止まる。

恭兄さまは、慌てて顔を背けて、ご自分の涙を拭ってらした。
「……夕食、今夜はこのまま外食するかい?」
ごまかすように、恭兄さまが私に聞いた。

「ううん。お家で美味しいもの、作る。何が食べたいですか?」

恭兄さまは、ちょっと考えてから
「鮎。塩焼きでも鮎飯でもいいな。」
と、夢見るように言われた。

「あ~……シーズンですね。いいですね。」
恭兄さまはうれしそうな顔になり、スキップしそうな勢いで歩き出された。
……かわいい……。

「せっかくだし、天然鮎を買いに行きましょうか。ん~……多摩川のちょっと上流とかに行けば、手に入る?かな?」

そう聞いてみたけど、恭兄さまはぶるぶると首を振った。
「絶対ダメ!臭いから!無理!」

その気迫に少し驚いた。
……聞けば、去年同じゼミに釣好きの人がいて、いろんなところの釣果をお裾分けしてくれたらしい。
が、恭兄さまには、やはり東京の魚は薬臭かったそうだ。

結局、いつもの高級スーパーへ行った。
栃木県の天然鮎を5尾。

とりあえず他の食材を扱ってるうちに、鮎を恭兄さまが備長炭で焼いてくれた。
……この家には、囲炉裏だけでなく、茶室の炉、七輪、火鉢、小さな焼却炉と、やたら燃やす設備が充実している。
恭兄さまが毎日大量に出す半紙や和紙の反故(ほご)紙を焼くためなのだろうが、せっかくなので炭火でお料理を手伝ってもらうことも増えてきた。

特に、お魚や、お揚さんを炭火で焼いたものは、香りも味も非常なお気に入りのようだ。

先に3尾を焼いていただき、恭兄さまのご希望通り、鮎飯を炊いた。
後の2尾は、たで酢と一緒にいただく。

他には、牛蒡と人参のきんぴら。
にんにくの芽のバターソテー。
お味噌汁は、仙台味噌にタマネギとお揚さん。

……少しずつ、洋食や他地域の食材を混ぜているけれど、今のところ、恭兄さまは喜んで食べていてくれている。

お弁当にはハンバーグや唐揚げも入れ始めたが、それについても特に問題はないらしい。

農薬や化学調味料さえ使わなければ、大丈夫なのかな?