ヒロインになれない!

和也先輩は苦笑して、私の頭をくしゃくしゃっとした。
「だぼが!そんなこと言うな。……おとなしく待っとけ。連絡するから。」

新しい涙がまたじんわりとにじんでくる。
和也先輩が指で拭ってくれた。

一瞬一瞬を惜しむように、私は和也先輩にまとわりついて歩いた。
駅でも、電車の中でも、人目も憚らずくっついていた。

「夜、出られるか?」
そう聞かれて、私はちょっと困ったけれども、意を決して頷いた。

恭兄さまの夕食さえ準備しとけば、罪悪感なく出られる……よね?

「そうか……。今まで、高校生に無理させたらあかん思ててんけど。俺、夜ならけっこう出られるから。時間あいたら連絡する。」
そう言って、和也先輩は電車を降りた。

「由未、次は俺のもんにするから。」
電車のドアが閉まる瞬間に、和也先輩が小さな声で言った。

私は、うんうんと、何度も頷いた。
電車の窓から小さくなってゆく和也先輩を見ようとしても涙で全然見えなかった。


いくつかの電車を乗り換え、最寄り駅に着いたのは15時過ぎ。
コインロッカーから制服や荷物を出して、改札を出る。

どこかのカフェで時間をつぶそう……と、ぼんやり下を向いて歩いてると
「由未ちゃん。よかった……」
と、恭兄さまの声がした。

え?

顔を上げると、恭兄さまが泣きそうな顔で立って居た。

「ど……どうしたんですか?」
驚いてそう聞くと、恭兄さまは、ほうっとため息をつかれた。

「学校から欠席の連絡が京都のご実家にあったらしくてね、お母さまからお電話いただいたんだ。」

「え!?」

「風邪のようだからお薬を飲んで寝てる、って伝えたよ。夜にでも電話してあげてほしい。心配してらっしゃるだろうから。」
「……あ、ありがとうございます……」

まさか、実家に電話がいくなんて。
ばつが悪くて私は押し黙る。

恭兄さまは何も言わなかったし、何も聞かなかった。
でも、本気で心配してくださってたのはよくわかったので、しばらくしてから謝った。

「……ごめんなさい。心配をおかけしてしまって。」

恭兄さまは、静かに微笑んで、私の荷物を持ってくれた。
「うん。心配で気が狂いそうだったよ。無事に戻ってきてくれて、ありがとう。」

大仰な言葉なのに、恭兄さまはさらりと、それでいて本気で言ってらした。
恭兄さまの心が伝わってくる。

優しく温かい慈愛に包まれて、私は、泣けてきた。